2013/3
彼女とは、その後も順調に仲を深めていった。
例えば、一緒に映画を見た。
彼女から「かわいいぬいぐるみの映画を観よう」と誘われ、実際に観に行ったのだが……。
確かに、かわいいぬいぐるみは出てきた。
しかし、内容は下ネタのオンパレードだった。
彼女は箱入り娘のようにピュアで、「こんな映画なんて知らなかったの……」と、困惑して私に説明してきた。
確かに、彼氏彼女が最初に見る映画ではないなと思った。
でも、彼女らしくはあった。
少しぬけているところがあって。
そんな一面も愛らしかった。
◇
3月下旬。
彼女とカラオケボックスに入った。
私は歌をあまり歌わない。
中学1年生のとき、コンクールの練習で「音痴すぎるから指揮者になってくれ」と先生から言われたくらいだ。
つまり、「歌わないでくれ」 ということだ。
思春期だった私にとって、それは歌うことへのトラウマになった。
その点、彼女は歌うことが好きだ。
普段のかわいらしい声は、歌声になると透き通るようなきれいな声へと変わる。
しかし、この日は話し合いをするために、二人きりになれる場所としてカラオケを選んだ。
いつになっても、このたばこの臭いが染みついた個室には、若干の嫌悪感を抱く。
互いに隣同士に座り、手はつないだまま。
「今後、どうしようか……?」
彼女とは一か月の約束だった。
互いの性格面では相性が悪いと思っていたものの、彼女の感性に惹かれていた。
私に持っていないものを持っており、共にいれば私もその感覚を共有できる。
彼女は、私の人生に色をつけてくれる存在だった。
ここで別れたら、また解像度の低いモノクロの人生へと変わるだろう。
「どうするって……決まっていたじゃない。卒業するまでって」
おかしい。
どうして。
だって彼女が先に私を好きになったのに……。
どうしてそんなに割り切れているのだろうか。
私は彼女にとって……特別にはなれなかったのだろうか。
「そんなのでいいの!?」
もっと一緒にいたい。
別れたくない。
そんな言葉が聞きたかったのに……。
私は悔しくなった。
たとえ一か月だったとしても、私は彼女を好きになった。
大好きになった。
大切だと思えた。
彼女は……そう思わなかったのだろうか。
「桃佳がそんなんじゃ……今後はないよ」
好きになったのは彼女から。
だから、「大好きだからもっと付き合ってください」なんて、私から言うのはかっこ悪くて言えなかった。
私だけがそう思っていたなんて、悔しくて言えない。
「どうして泣いているの?」
気がつけば、僕の目から涙があふれていた。
だって彼女の反応は冷めているように見えたから。
滑稽に思えた。
私だけ浮かれていて。
彼女も同じ気持ちだと勘違いしていて。
「だって、桃佳は……別れたいって思っているんでしょ」
私の気持ちは言わず、相手の反応をうかがう。
「一か月って言ったのは蒼くんだよ。それに、遠距離なんて無理だって言ったのも蒼くん。どうしようもないじゃない」
確かに言った。
付き合い始めの頃に。
でも、状況は常に変化するものじゃないか。
「だから、私は一か月だって、割り切った。この一か月を大切にしようって。そして、終わったら別れようって。いい思い出だったなって」
「確かにそう言ったよ……でもさ! そんな簡単に諦めないでよ! もっと自分の気持ちを出してよ! 私は……別れたくないよ!」
「私だって、本当は別れたくないよ。でも、別れなきゃって思って。そういう約束だから……」
彼女も泣いていた。
やっぱり相性は悪いのかもしれない。
でも……似た者同士なのかもしれないとも思った。
その後、二人で泣いて、「ごめんね」と言い合い、遠距離恋愛となった。
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