第30話  ~僕と命がけの社会科見学(前編)~

「ハナビート、3分の遅刻だぞ」

「すまない。前髪の位置が決まらなくてね」


みんな普段着だが、よく見ると少しずつ服装が変わっていた。

サーディンは大剣、ハナビートはギター、シキさんはライフルを背負っている…。


「よし、みんなそろったな…いくぜ!」



「「「お~」」」



僕たちは人目のつかない場所を歩いていく…。


「なんか、モモタロウみたいだね」

「なんだよそれ?」

「僕の国にあるおとぎ話だよ。モモタロウっていう男の子が3匹の家来を連れて、悪さした鬼をやっつけに行くんだ。今の状況がそれに似ていると思って…」

「ってぇことは、オレがそのモモタロウってヤツだな。おまえらが家来な」


「「「はぁ!?」」」


みんな口々に反論しだす。


「リーダーというのは頭の賢い人間がやるんだよ。作戦の考案や、先を考え行動することができないと務まらない。…つまり、わたしだろう?」

「いやいや、リーダーというのは、みんなをまとめるものだろう? 人をまとめるには音楽が必要だ。つまり僕が適任だ」

「はあ? 俺はリーダー経験があるんだぞ?」

「サーディン、非常に言いにくいんだが…キミがリーダーをしていたころは、評判があまり良くなかったんだよ、苦情もきていてね…」

「ハナビート、あとでそいつらの名前教えろ。これが終わったらコブシで話し合ってくる」


(今の会話でも評判がよくない理由がわかる気がする…)


だから…オレが……わたしが……僕が……やれやれ……まったく……


また、ケンカし始めた…。なんかこの人たち超心配…。




「こっちだ、着いてきたまえ」


僕たちはシキさんの後ろをついてゆく。そこはシキさん専用の抜け道があった。

なにやらパスワードを入れてさらに奥に進む。

そこには八畳くらいの池のようなものがあった。サメ型の乗り物が置いてあった。

僕がここに来たときに乗せてもらったものと似ている。


「紹介しよう。ネプチューンくんだ。ちょうど四人乗りだ」

「あーハイハイ、コレに乗っていくわけね」

「シキさんって専用の乗り物を持ってたんだ…」

「ふっふっふ…!わたしはスターゲイザーの開発も手伝ったんだよ?」


シキさんは鼻をフフンと鳴らす。


「ハイハイ、スゴイデスネー。んじゃ、サッと行って、サッと帰ってこようかぁ。ハナビートくん」

「ソウダネー、スゴイネー、僕らは後ろに乗ろうか、サーディンくん」

「キミたちは冷たいな!キミらの洗濯機や楽器もつくっただろう!少しくらいわたしをワッショイしてくれてもいいんじゃないか?」


多少のイザコザはあったけど、僕らはネプチューンに乗ってオルテンシアを出た。






「これが今回のターゲットだ。ゼンザーダという盗賊団だ」


座席の前にモニターには20人前後の盗賊のようなヒトが映っていた。

オルテンシア全体が襲われる様子が映し出された。


「今回の奴らは、チンピラ集団だ。そこまで脅威ではない。 …だが、ならず者の集団が大きくなると、あとあと厄介だからな」

「こいつらか…」


後部座席でハナビートがつぶやく。気のせいか声のトーンが低い。


(…なんか機嫌悪い?)


「おそらくお目当ては、カイテニウムだろう…」

「カイテニウム?」

「最近このあたりで発見された未知の金属さ。このあたりではよく採れるんだ。ゆえに オルテンシアは狙われやすい。盗賊としてはありがたいだろうな。仮に捕まっても、オールハートの精神で死刑にはならないことを知っているんだよ。だからやりたい放題だ」

「ケッ、胸クソ悪いなぁ…ったくよ」

「ホントだね…」

「だが、盗んでくれたのがカイテニウムで助かった」

「どうして?」

「カイテニウムを探知できるものを我々はつくっていたからさ。こんなことも想定し、レーダーで探知できるようにね。連中は発信機をもって逃げたようなものさ」

「そんなことできるんだ」

「距離もそんなにない。30分ほどで着くさ」


…………………………。


無言の空気がイヤなのか、サーディンが口を開いた。


「いきなりハナシ変えるけどよ、なんで俺たちと行くって決めたんだ?レイジ?」


道中、僕は昨日見た夢の話をした。


「そうか、おじいさんが夢に出てきたか…」

「海はつながっているからね。おじいさんの残留思念みたいなものが、メディカルマシンに流れ込んできた…てのは、ちょっとオカルトすぎているかな?」

「細かい理屈なんていいだろ。おまえが自分で決めたことが大事なんだから」

「サーディン、人がロマンチックにまとめようとしたのに…」

「そりゃ、悪かったな」


~~~


「着いた…」


ヤツらの拠点は荒廃した街だった。石造りの建物は蔓で覆われ窓は壊れていた。

その奥に古い小さな神殿のような跡地。そこが奴らの住みからしい。


「ここも昔は栄えた街だったのだろう…」

「今じゃ、見るカゲもねぇな」

「オルテンシアをこんなふうにしたくはないな…」


3人はくちぐちに感想をもらす。その奥には学校の教室くらいの空間があった。

オルテンシア同様、いくつかの神様の銅像がある。ただちがう部分は…すべて顔がない。壁にあったはずの神との約束事の文言はすべて砕かれ、赤黒い血のようなもので何か書かれていた。つまり、『神は信じない』ということだろう。そして、神殿の中央は…デコボコの石畳。ところどころ隙間から草の生えた石道がある。僕たちはまわりを警戒しながら歩いていく。


「オルテンシアって文明がすすんでいるけど、今回は肉弾戦になりそうだね」

「どんなのを想像してたんだよ?」

「そうだなぁ、えっと、なんて言ったかな。全身機械の兵隊、バトルドロイドっていうの? 戦闘ってそんなのがたくさん出てくるイメージだったから…」

「今回はムリだ。そんなものを使えば、国の履歴に残るからね。あっという間に発見されるだろう…言ったろ? 今回は極秘の社会科見学だって?」

「そうだったね…」

「それに、科学者の私が言うのもなんだが、なんでもAIまかせにするのは良くないさ。レイジくんがここにいるのも、AIの指示ではなく…自分の意志だろう?」


(あ…)


「AIは確かにスバらしいよ。でも、AIを人生の羅針盤にしてはいけないよ」

「そうか…そうだね」

「まあ、レイジにぁ悪いが…今回の戦いは、そーとー地味だと思うぜ?」

「必要ないさ、ゴロツキ程度、僕らで充分だ」


ハナビートは吐き捨てるように言った。その言葉には静かな怒りを感じた。


ガヤ…ガヤ…


ボロボロの神殿の広場でヤツらは酒盛りをしていた。

こちらには気づいていないようだ…。


「数は…全部で20くらいか…意外と少ないな」


シキさんが双眼鏡のようなもので分析して教えてくれた。


「戦力を隠しているかもと思ったんだが…」

「間違いない。アイツらが実行犯だな」

「わかるの?」

「僕は音楽家だ。耳には自信がある」


ハナビートは、ゴールキーパーが使うような穴あきグローブをハメなおした。


「サーディン、ここは僕に任せてくれないか?」

「別にかまわねぇけど、手柄が欲しいのか?」

「たまには暴れたくてね…。手下のザコは僕が片付けるよ。シキはレイジを頼む」

「わかった」

「それから…レイジ、僕のギターを持っててくれ」


ハナビートにギターを手渡された。


「丸腰で闘うの? 大丈夫?」

「大丈夫さ。それに…親友のプレゼントをチンピラの血で汚したくないからね」


それ以降、彼は無口になった。

いつも陽気な人が喋らなくなると、なんか調子が狂うな…。

ハナビートは一人で前に出た。サーディンとシキさんは動こうともしない。


「ちょ、ちょ!ハナビート一人で大丈夫なの?相手20人くらいいるでしょ?」

「ん? ああ、大丈夫だろ」

「レイジくん。まあ、見ていたまえ。ピンチになったら、我々が助っ人に入るさ」


僕は預かったギターを見た。


「裏に何か書いてある。う~ん…」

「女王陛下からの受けた恩、一日たりとも忘れたことはありませんってとこかな。要約すると君恩海壑ってとこか…。それが彼の戦う理由さ。ちなみにそれは私が彫ったのだ」


僕の後ろでシキさんが解説してくれた。


(ノリの軽い人だと思っていたけど…恩義とか大事にするんだ…)


「なんだぁ? てめえは?」

「………………」


ハナビートは体を左右にゆっくり動かしはじめた。


「フラフラしてよぉ? 酔っ払いかよぉ?」


ワッハッハッハッハ!


ゴロツキの集団は一斉に笑い出す。


「……………………」


彼は無言でゴロツキ集団に近づいてゆく。そう、僕も最初はハナビートの動きが酔っ払いのように見えた。でも違う。ハナビートは一定のリズムで左右に動いている。ゴロツキは酔っ払いと言ったが、僕にはハナビートが音楽室にあるメトロノームに見えた。


「まあ、なんでもいいさ…このガーバッジ様がぶっ殺してやるぜ!」


ひげボーボーのゴロツキが刀でナナメに切り込んだ。


「危ない!」


…しかし、ハナビートは当たらなかった。


「………は?」


ゴロツキがすかさず2撃目を切り込む。

今度は左に避けた。ゴロツキはヤケになり、たくさん切り込んだ。

しかし、ゴロツキの太刀筋は虚しく、空を切るだけだった。


「なんで…なんで、当たらないんだぁぁぁ!?」


後ろに控えていた女のゴロツキがつぶやくように言った。


「メトロノームみてぇだ…さっきから一歩も動いてねえ…」


ガーバッジというゴロツキは、ハナビートにもたれかかるように倒れた。


「フン、リズム感のないヤツだ…。ゴミが。僕に…もたれかかるな」


ハナビートが吐き捨てるように言った。


「ナイスボディ~ブロ~!」


サーディンが茶化すように言った。

僕にはハナビートがなにをしたのかさえ、見えなかった。


「コ、コイツ…! ぜ、全員でかかれぇ~!」


いかにも小物が言いそうなセリフを言って、ゴロツキたちは彼に向かっていった。


「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!」」」


ハナビートは顔色一つ変えず、体を左右に揺らしながら少しずつ前進していった。




ボコ! ガッ! ドゴ! バキッ! ゴン! グシャ! ガン………




左に1回、右に1回揺れるたびにゴロツキはその場に倒れていった。

意識はあるが、動けないといった様子だ。

ハナビートは無傷でゴロツキ全員を倒してしまった。


「シキ! アレを!」

「まかせたまえ!」


シキはパチンコ玉のようなものを取り出し、ゴロツキにむかって投げた。

パチンコ玉は細長いヘビのようになり、ゴロツキに巻きつき捕縛した。

するとゴロツキはその場に立った。


「おまえ、さっき…僕のことをメトロノームみたいと言ったな?」

「だ、だったらなんだ!」


女のゴロツキはおびえたように答える。


「なかなか物知りじゃあないか。まあ、そんなことはどうでもいい。今度はおまえたちがメトロノームになれ」


そういうとハナビートは、その女に右フックを入れた。


「ガッ!」


女は左へ弧を描くように倒れ込む…が、すかさずハナビートが左フックをお見舞いする。そしてまた右、左、右…10発から先は数えていない。ほどなくして女は動かなくなった。


(僕のまわりって、女性にも容赦ない人多いな………)


「ゴロツキ風情が。女王陛下にキズを負わせた罪を償え。さて…残り19人か…」


ハナビートがまわりを見ながら、下を向いて考える。


「シキ、すまないが…あの奥の通路を、先に調べていてくれ。僕はもう少し、ここでやることがある…。僕に付き合っていたら、黒幕が逃げるかもしれない…」


「わかった。なんかあったら呼んでくれ」

「ああ。すまない、自分勝手で…」

「ギターはココに置いておくね。僕が言うのもなんだけど、気を付けてね」

「ああ、お互いにね」

「んじゃ、俺らは本命へ直行するか。行くぜ!」

「そうだな。行こう、レイジくん」


(…え?)


「…おまえ、これで終わりだと思ってただろ?」


ギクッ!


「んなワケねーだろぉ?」

「あんなチンピラどもに、オルテンシアを効率よく破壊できるわけがないからね。誰かが裏で糸を引いている…と考えているかな、私たちは」

「すいません、浅はかでした」

「ま、ガキンチョはそんなもんだ」


ハナビートを残して、僕たちは奥の通路に向かって走った。


「なんか…すっごい機嫌悪かったね、ハナビート」

「女王陛下をキズつけたのが許せなかったんだろう。彼は王族の人間だからな」

「…え? そうなの?」

「そうさ。王族でありながら、音楽活動が許されているのも国王陛下のはからいあってのものだ。特別扱いされている自覚があるからこそ、有事の際には命をかけて動くのだろう」

「そうだったのか…」


僕は自分自身を恥ずかしく思った。

ハナビートのことをなにもわかっていなかった…。


(だから、カノンさんやゴネータ大臣にあれだけ怒っていたのか…)


「レイジくんにはノリの軽い男に見えたかもしれんが…アタマは軽くないよ」

「なんで、オレ見て言うんだよ?」


(サーディン…自覚がないのか…?)


「しっかし、わかりやすいくらいに小悪党だったな、アイツら」

「うん。でも…映画とかマンガと一緒なんだね。なんで小悪党っていつもセリフが似かよっているんだろう?」

「カンタンなことだ。頭が悪いから語彙力も乏しいのだろうよ」

「そっかぁ…」

「レイジくん。本をたくさん読みなさい…。良いね?」

「う、うん」

「本なんて読まなくていいんだよ。節度と恩義を忘れなけりゃ、生きていけるぜ」


(このメンバーの中で一番…その2つが欠けてそうに見えるんだけど…)

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