第22話 ~僕と暗い洞窟~

「ん…おお! コインだ!」


土で汚れているが洗えば綺麗になりそうだ。たちまち嬉しい気持ちになった。

ドングリを拾って喜ぶ子どものように僕は目を輝かせた。

もっとないかと思い周りを見ると、もう一つコインを見つけた。

それもポケットに入れた。その先にまたコインがあった。と同時に…


「洞窟だ…」


その洞窟は僕より下にある。そこだけは綺麗な下り階段になっていた。

その下ったところにある洞窟には水たまりになっていた。

前人未到の島と思っていたけれど、人為的につくられたものであるなら、

人がいるかもしれない…。

しかし、人為的につくられた階段とはいえ油断はできなかった。

ヌルヌルした海藻の生えた岩の上はすべりやすく、何度も転びそうになった。

リハビリの患者のように、ゆっくり壁をつたって階段を下った。

洞窟の入り口に着くと、すぐに登り階段があった。

さっきの下り階段と同じくらいの高さだ。


「なるほど。満潮と引き潮で、入れる時間帯を制限してるってことか」


そういえば、洞窟の中は酸欠になるらしい。

サバイバルブックで読んだことがある。大丈夫だろうか?

…と思ったら、奥からからそよ風が吹いてきた。


「…ということは、出口があるということだから…行くか!」


さんざん悩んだけど、洞窟に入ることを決めた。曲がりくねる枝道へ入り、大きな滝のようにみえる岩に着いた。そこをうしろに回り込むと自然の階段を見つけた。

壁に挟まれたせまく険しい登りだ。僕は先へ進んだ。

あるところには広々とした空間があり、その天井からは大人の脚ぐらいあるピカピカ光った鍾乳石が下がっていた。足元に冷たい風が当たることに気が付いた。どうやらこの丸い岩のようだ。このランドセルくらいの丸い岩は重くて持ち上げることはできないが、転がすことくらいならできる。僕は右に少し転がした。

声がこだましないか面白半分で「ワッ!」と言ってみた。


キキイィーーーー!


「うおわぁ!」


黒いティッシュのようなものが僕に目がけて飛んできた。


「コウモリか…びっくりしたぁ…」


また少し行くと、今度は心安らぐような泉があった。


(間違いない…だれか人がいるんだ…!)


周りの壁は美しい柱に支えられている。何世紀にもわたって水滴が落ち続けた結果、鍾乳石と石筍が合わさってできた柱だろう。僕は周りを見ながら、手で周りを仰ぐようにしてゆっくり進んでいった。

上は暗い天井の中で白いヒビ割れがあるように見える。

だから完全に真っ暗というわけではないが…人間は通れそうにない。

そこでしばらく休んでまた歩く。狭い道を歩きはじめる。



深い静寂…。



自分の呼吸音しか聞こえない…。道が分かれているときは声が響くかどうかで決めた。声を出すと、その声が空間に響いた。またコウモリが来るかも…そんな考えが頭をよぎったが、もうどうでもよかった。


(飲み水はまだある…)


とにかく進もう。泣いても座っていてもなにも変わらないのだから。

なにより、満潮になる前には戻らなければならない。そうしないとあの入り口が海水で覆われ、出られなくなる…。あれくらいの距離なら水泳経験のある僕なら、戻れそうな気がするけど…。服を濡らすとカゼをひくかもしれない。替えの服もない…。僕は先を急ぐことにした。ときおり、奥からよそ風が吹いてくる細道を歩くこと10分ほど。細道はやっと終わり、ひらけた場所に出た。


「こ、これは…!」


大きな海賊船がある。学校の体育館くらいの大きさだろうか。そして海賊船の右隣にはこげ茶色の家があった。その家は海賊船に比べれば小さく見える。…ただ、どういうことか人の気配はない。僕が見ている場所からは家の大きさは海賊船の3分の1くらいしかなかった。それは立派な家というよりは、オバケ屋敷といった方が適切かもしれない…。無人島と思っていたこの島は海賊船の隠れ家だったのだ。


なんだか奇妙な静けさがただよっている。そのオバケ屋敷のような家は荒れ果てていて、わびしくて中に入るのが一瞬怖くなった。


ソロリ、ソロリ、とドアに近づいて、ふるえながらのぞき込む。

床板と階段はいまにも抜け落ちそうで、家の中なのに雑草が生えている…。

古いタイプの暖炉に、触れるだけで割れそうな窓。そこら中に見えるクモの巣…。


ドクン…ドクン…


「お邪魔しま~す」


小声で言った。呼吸を整えながら、そっと中に入った。反応はなかった。

いつでも逃げ出せるような体勢で用心してゆっくり動く…。

1階はなにもなかったので、ギシギシとする階段を登って2階へ行った。

木の椅子にぶつかった。


そばにテーブルが置かれていて、その上には白い水差し、お皿代わりの大きな貝殻、錆びついたナイフ、2、3本の釣り針、大きめのコップが4つあった。

1階と同じようにボロボロだ。クローゼットがあったが中は空っぽ…。

この家に誰かが住んでいたのは間違いない。


(どんな人が住んでいたんだろう? 今どこにいるんだ?)


なんの手がかりが得られずに外に出た。


「じゃあ次は…」


海賊船の方に行ってみるか。あっちには人がいるかもしれない。

見つからないようコッソリ歩く。抜き足、差し足、忍び足…。

船の中央には長い板が見える。その板は船乗り場と船をつないでいた。


(行くか!)


僕は覚悟を決めた。

もし不審な人がいても、水に飛び込んで潜って出口から逃げよう。


(こう見えて水泳だけは得意なんだ…!)


思い切って船べりまでのびている板を渡った。

板の幅は大人が1人歩くのがギリギリできるくらいだった。

ギシギシと音を立てるので、バキッと折れて落ちるんじゃないかと

不安で仕方がなかった。そして、ようやく海賊船の中へ入った。

僕は見つかってもすぐに飛び込めるように、船べりをつたって動くことにした。


「だれも…いないのか?」


あいも変わらず誰もいない。船の先端には何もなさそうだ。船尾楼の方は1つだけドアがある。下へ行くためのドアだ。僕は船の後方を調べてみることにした。

船尾楼の方へ行くとそこには木製の丸い舵があった。僕はカッコつけて舵を回そうとしたが、舵はビクともしなかった。しかし裏を返せば、この船は長年使われていないということだろう。緊張が解け、僕は船長室に行ってみた。


「わあお…」


その部屋は宝の山だった。たくさんの宝箱。そして宝箱に収まりきらないくらいの金貨。コート掛けには真珠のネックレス、金のブレスレット、ダイヤモンドがちりばめられたペンダント、丸いルビーをはめた髪飾り…他には赤、紫、緑の宝石が装飾されている聖杯、黄金の銃、飴玉ドロップのような宝石が数えきれないくらいあった。

本物かわからないけど、どれもピッカピカに光っている。


「これで僕は億万長者だ! イヤッホウ!!」


家族や友達になにか欲しいものを買ってあげよう!

もっとないかと見回していると、部屋の中央にテーブルがあることに気づいた。

それは大人が2人で雑談するにはちょうどいい大きさだった。


そこには…


「え? ホンモノ?」


ガイコツを見つけた。机に突っ伏している。僕はおそるおそるガイコツに近づいた。

金色の装飾が施された赤い上着を羽織っている。


(動いたり………しないよね…?船長かな…?)



なんの根拠もないが僕にはそう見えた。

そして船長の体の下に赤茶色の本を見つけた。

本にはたくさん文字が書いてあったが、どこの国の言葉かもわからなかった。

英語かな、と思うけど…どうにも字が汚くて読めなかった。

パラパラとめくっていると最後のページから一枚の白黒写真が出てきた。


「…ん?」


それは小さい女の子を抱きかかえた中年男性の写真だった。

いろいろ思うところはあったが、僕は考えるのをやめた。


「そんなことよりここを出よう。さすがにぜんぶは無理か…」


家族や友達が喜びそうなものだけを布に包み、


サンタクロースのような持ち方でその海賊船に背をむけた。

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