第20話 ~僕と未確認巨大生物~
「なんだ? ありゃ」
いきなり、クルーの一人がつぶやくように言った。
「あの海草の奥で何かがうごめいている…?」
別のクルーが目視で確認する。
「うごめいているだと? レーダーに反応はないが…まあ、大丈夫だろう」
「あの岩に空いている穴は?」
「タコとかイカの住みかだろ?」
「それにしても大きくないか?」
「大所帯なんだろ。それともなんだ? 巨大生物でも住んでるってのか?」
クルーの答えに、僕はアンビリバボーな表情で話しかけた。
「いや、そんなのは空想のなかだけで充分です。…でも本当にいるのかな?」
「都市伝説じゃないのか?」
「誰かが退屈を紛らわすためにつくったフィクションとか?けどよ、大型のタコやイカがいるのは本当だ。過去に俺たちは体長6メートル、足が10メートルのタコを見たことがある。データも残ってるぜ?」
「へえ~。そんだけ大きかったら、タコ焼きがたくさん作れるね」
「ハハッ、ちがいねえ」
「ま、見たのはそうとうまえだ…でもよ、今でもそんな話があるのか?」
「目撃情報はある。例えば数年前、ランディアンの潜水艦が海中を泳ぐ巨大生物に出くわしたそうだ。たくさんの足があったからタコかイカだろうと。必死に応戦したものの、結局は逃げられちまったらしいが…」
「へへぇ、で? その怪物はどのくらいだったんだ?」
「5メートルくらいではなかったですか?」
「5メートルか、じゃあ俺たちの勝ちだ!」
サーディンは手を腰に当て勝ちほこる。
「いや、勝ち負けを競っているわけでは…」
「ちなみにタコの脳みそは、9つあるんだって。知ってた?」
「そうかい、知らなかったよ。…で? それがなんの役に立つんだ?」
「いやね、サーディンにも脳みそがたくさんあればよかったのにね」
「おいおい、レイジ。脳みそってのは持っているだけじゃあ意味ねぇんだぜ?ちゃんと使わなきゃ意味がないんだ…なあ?」
「俺は脳みそより手がたくさん欲しいぜ…てめえらをタコ殴りにできるからなぁ」
サーディンは指をパキパキならしている。
「ジョ、ジョーダンだよ」
するといきなり、クルーの一人が大声を上げた。
「な、なんだ、あれは!」
クルーは窓を見てあわてふためいている。
窓の外に目をやった僕も、恐怖のあまりあとずさりした。
目の前には巨大なタコが目の前でうごめいていたのだ!
「過去のデータと照合しろ!」
「了解! ……体長12メートル! 数は不明! レーダーに反応なし!」
「なんだと! バカな! 生物ではないのか?」
「…体長は12メートル?新記録じゃないか!」
艦長はうろたえている。その巨大タコは、黄色の大きな目でこちらをニラみ、すごいスピードで近づいてくる。八本の足は体長の2倍はありそうだった。その内側には吸盤がみっちりついていた。口はオウムのクチバシそっくりで上下に開いたり閉じたりしている。開くたびに口の中の鋭い歯がギッシリならんでいるのが見えた。タコの口は下についているのだと今更ながら知った。巨大タコの体は、みるみるうちにムラサキ色から綺麗な赤色に変わっていった。
「あっちにもいるぞ!」
サーディンがさけんだ。巨大タコは1匹ではなかった。仲間が次々とあらわれた。
全部で6匹の巨大タコが艦体にまとわりついた。吸盤の一つが僕の顔と同じくらいある。
ギリリリ! ギリリリ!
「クチバシのような口でガリガリと削っているぞ!」
別の場所から誰かが叫んだ。
ガクン!
すると艦体がいきなり停止した。船体がわずかに揺れている。艦長が副館長となにか話している。やがて、副艦長はどこかに姿を消し、艦長は席に座りパネルをいじりだした。それから艦長は僕に言った。
「スターゲイザーのスクリューが止まってしまった…。あのタコがなにかしたのか…? これから海面に上がって陸地に近づき、あの怪物たちを退治する。そのときは甲板から直接出て挑む! 各員、戦闘に備えよ!」
「でも…どうやって退治するんですか?」
「タコの体は柔らかすぎて電気系統は役に立たない。水気を含んでいる分、下手すれば我々が感電する…。むしろ、打撃の方が良い。斧を手にもって戦うしかない!」
「
「う、うん」
サーディンが勢い込んだ。こういうときはとても頼もしい。
(さっきはからかってゴメン…)
「区画ごとの隔壁を閉めろ! サーディン、わかっているとは思うが…」
「討伐より人命救助が優先! …だろ?」
サーディンの言葉に艦長は静かにうなずいた。
「どこから入ってくるかわからない…。気を付けるんだ!」
僕たち3人は、艦長のあとにつづき、中央のハシゴまで移動した。そこには、5~6人ほどのクルーがすでに手に斧を持ち、迎え撃とうとしていた。サーディンは斧を手にした。海面に浮上するまでもう少しかかる。
「開けるぞ…」
そして乗組員がハッチを開けようとボルトを外しかけた瞬間…ハッチの鉄板がものすごい勢いで開いた。部屋の先は少しずつ海水が入ってきている。艦体に穴をあけて入ってきた。その直後、巨大タコの長い足が一本、艦内にヘビのようにスルリと入ってきた。他の窓からはさらにクネクネ動いているのが見える。
「おうらよぉ!」
サーディンが入ってきた巨大タコの足に力いっぱい斧でたたき切る。
ガキン!
「ん? タコってホネがあんのか…?」
切り落とされた足は、のたうちまわっている。好機とみてサーディンは一気に畳みかけようとしたが、そのとき後ろから別の足がニュルっと乗組員の体にまきつき、そのままさらっていってしまった!
「待てー!」
艦長はそう叫ぶと後を追おうとした。僕たちも後に続いた。さらわれた乗組員は巨大タコの足に占められたまま、空中にもちあげられ、振り回されている。
「どうすればいいんだ?」
「あ、あわわ…」
僕は武器をもっていたものの、膝が笑っていた。
「助けてくれぇ!」
「待っていろ! すぐに助ける」
「待ってくれ、艦長。この位置はマズい。挟撃される」
他の乗組員が隔壁を閉めた。
「よし、これでここの浸水は防げる」
挟撃の心配がなくなった僕たちは、仲間をさらったタコもどきに、斧を勢いよく振り下ろし、その足を何本か切断した。他の乗組員と僕たちも、それぞれ手にした武器をタコもどきの足に打ち込んだ。
ガキン!
カタい感触がした。血なまぐさいにおいが、あたり一面に立ちこめた。
ついに、乗組員をさらったタコもどきの足が切り落とされた。
さらわれた乗組員はまだ息をしている…。
「よかった…」
艦長とサーディンがトドメの一撃を加えようと近寄った瞬間、巨大タコはからだ全体から黒いスミを吹き出した。
「うお!?」
あたり一面、闇に包まれて何も見えなくなった。ようやく見えるようになったときには、その巨大タコはもういなかった。するとまた艦全体が揺れた。
「タコヤローめ。侵入経路を変えたのか?」。
サーディンはボヤくように言った。艦内の床ではではたたき切られた何本ものタコ足が、おびただしい量とスミにまみれ、のたうちまわっていた。…あんまり見たくなかった。大きな音がする方へ走った。やはりタコもどきがいた。サーディンは銛で巨大タコたちのギョロッとした目を次々に刺していった。
「へっ、どうだぁ!…ん?し、しま…!」
ところが一瞬のスキをついて、巨大タコの足の一撃を腹部に受けてしまい、とっさにガードしたものの、壁にたたきつけられた。
「ぐっ、が…んの…やろお!!」
すぐさま巨大タコは、サーディンに襲い掛かろうとした。
「サーディン!」
そう思った瞬間、タコのくちばしの間に艦長が斧を打ち付けた。間髪入れずに今度はまた別のタコもどきが艦長を襲おうとしていた。すぐに立ち上がったサーディンは、その巨大タコにめがけて銛を打ち込んだ。タコもどきはブルブル小さく震えて、やがて動かなくなった。
「なんとかなりそうだな…艦長さんよ。あといくつだ?」
艦長に声をかけた。そのあとも戦いは20分ほどつづき、ズタズタにされたタコもどきたちは一匹残らず海に退散していった。
「よし、この部屋は大丈夫だ…次はドコからだ?」
サーディンは艦内のマップを見ている。艦長はつぶやくように言った。
「…ダメだ。これではキリがない。かくなる上は…」
艦長の目つきがさっきより鋭くなった。振り向いてみんなに声を張り上げる。
「ワープホールを使う! 総員、この艦から脱出せよ!」
「ダメです! 干渉波の影響でワープホールが使えません!」
「なにっ? くっ…なら…原始的な方法だが…。一旦ブリッジに集まれ!」
僕らは、艦内の中央に集まった。
「この部屋で戦うぞ。最悪の場合…艦を放棄する!」
艦長の命令が艦内に響く。それを聴くと乗組員はそれぞれ動き出した。
このブリッジには3つの丸い柱がある。
「悪いな、レイジ…」
僕はサーディンに腕を掴まれ、そこに押し込められた。
「え? ちょ…」
サーディンがドアを閉めた瞬間、ヒゲを生やした乗組員がボタンを押している。
僕は見ていることしかできなかった。
そしてものの一秒で僕は透明な球体に包まれた。
次の瞬間、僕は上へ飛んでいった。
「そうか…あの柱は緊急時の脱出装置だったのか。艦内のどこでも脱出できるように設計されていたのか…」
それにしてもすごいスピードだ。
ジェットコースターに乗ったときのような負荷がかかってくる。
「あ、あれ…?」
だんだん意識が遠のいていく…。目に見えるものが滲んで力が抜けていく。
最後に見えたのは…深海にある2つの影だった。
今、僕は海中を泳いでいる。
その動きは軽やかで、まるで自分が魚になったかのようだ。
なんでこうなった? 生まれ変わったのか? また変なドリンクでも飲んだのか?
そもそもここはドコなんだ?
わかることと言えば…海が穏やかであることだ。
あれは…ウミユリだ。3Dバブルシアターで見た。
オルテンシアに帰ってきたのか…。次はアンモナイト…。
イカが巻貝のヘルメットをかぶっているようでスイスイ泳いでいる。
今度は魚がたくさん出てきた。見たことない魚ばかりだ。
すごく大きなアゴを持った魚。
群れを作り、まるで踊っているみたいに同じ動きをしているのもいる。
魚になった今なら一緒に泳げるかもしれない…。
大むかしの海のなかってこんな世界だったんだ…。
ボーっと眺めていると、小さな魚は大きな魚に食べられてしまった。
その大きな魚はさらに大きい魚に食べられた。
(食物連鎖…)
知らない魚が多いことを除けば、今の海とあんまりかわらないような気がする。
みんな、食べたり食べられたり生まれたり死んだりしている。
そういうのもぜんぶ包み込んで、青い世界はすごくきれいだ。
そしてときに残酷だ。
そこでからだは、シャンプーのようなアワに全身包まれていく。
(なんだ? 何が起こったんだ?)
まわりが真っ白になり………目が覚めた。
ゆっくりと体を起こす。
「はっ? ここは…ドコなんだ?」
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