第13話  ~僕と赤髪の男サーディン~

ちょくちょく寄り道したけれど迷子にならずにカノンさんが言う目的地に着くことができた。僕だけ肌の色が違うから、視線が気になったけどそれ以外は不自由なかった。何かされたわけではないし…。そういう意味ではオルテンシアの人は優しいのかもしれない。


「ここか…」


そして玄関前の板チョコのようなドアの前にいる。

インターホンのようなボタンがあったので、何も考えずに押した。


ピンポン!


「反応なしって、あれ?」


よく見ると、ドアは少し開いていた。


「カギをかけ忘れたのかな? それともオルテンシアは治安がいいのか…?」


僕はドアを開けてゆっくり入った。


「おジャマしま~す…」


小声で入っていった。部屋は薄暗かった。

壁には天井までくっつく本棚があり、隙間なく本が収まっている。。


(ここだけ、レトロな感じするなぁ…でも、地震がきたらどうするんだろう…?)


テーブルにはビート板のような大きい本が何冊も重ねてあった。床のいたるところにも本が置いてあった。気を付けないと、つまづいて転んでしまいそうだ。


「はい、いらっしゃ~い」


奥には誰かが座っていた。声からして若い男性のようだった。

僕は足元を見ながら、転ばぬように歩いた。

寝起きの人間のような目つきをしている。


「こりゃまた、ちっこいお客さんだな」


男はめんどくさそうな口調で僕に聞いてきた。


「しかも…ランディアン、ね…」


男の髪色はワインレッドで、髪型はオスライオンのたてがみのようだ。

身長は…190センチくらいかな。じいちゃんより少し大きいくらいだ。


「で? なに?」

「妹を治す薬を下さい。お願いします」


男は手元にあったバインダーを手に取った。


「症状出たのいつごろ? 患部の色は?」


なんか、感じの悪いお医者さんだな…。

でも高名な人って、不愛想な人が多いと聞くし…。

僕はなにも疑わずに質問に答えた。


「咬まれたのは昨日で、色は紫色でした。」


彼は目を見開いた。そして本棚にある暗赤色の本を取り出して…


「…まさか紫色…だと?」


おもむろに立ち上がりそして僕の両肩を掴み視線を落とす。


「すまない…」

「…え?」

「残念だが…オレにはなにもできない…」


さっき聞いた話とちがうじゃないか。ウソでしょ?妹は手遅れなのか。どうしよう…


「…ウソ」

「…は?」

「ウソだよ、ウソ。引っかかったぁ! アッハッハッハ!」


彼は腹を抱えて笑っている。僕はチカラいっぱい彼の足を踏んづけた。


ガンッ!


「いってぇぇぇぇぇぇ! 何すんだ! こんガキャ!ささやかな冗談だろ。お前、友達いないだろ!」

「うるさい! 友達いるわ! あんなのは冗談とは言わないんだよ!」

「やめなよ。サーディン。相手は子どもじゃないか?」


近くにいた金髪の男が止めに入る。細身で背丈は赤髪の男より頭一つ低いくらいかな。顔は…うん。美形だ。女性にモテるタイプの顔。シズカや母さんが好きそうなイケメンだ。あと気品がある。赤髪の男とちがって。赤髪の男は力仕事が得意そうな体つきだ。


(え? サーディンって…)


「ウソをつくなら相手が喜ぶようなウソにしなよ」

「いや、ウソはついてねぇよ。だって俺、医者じゃないから」

「そーゆう問題じゃないだろう…」

「コイツを元気づけようとだな…かわいいウソってやつよぉ」


何言ってんだ、この人。


「あ、あの…」


僕は金髪のお兄さんに話しかけようとした。


「ちょっと待ってくれ。そもそも、僕らはこの家のものじゃない」

「ええ? そうなんですか? えっと…」

「ハナビートだ。ヨロシク、ランディアンの少年」


ジャララン! 


とパールホワイトの色をしたギターを軽く鳴らして自己紹介する。


「レイジです」

「俺はサーディンってんだ…で? 何しに来たんだ?」

「この手紙を渡してくれって…」

「かしてみろ」


手紙を渡した。僕もコッソリ手紙の内容を見たけれど、イルカの紋章がオシャレと思っただけで、オルテンシアの文字は読めなかった。サーディンという筋骨隆々の男は、手紙を読んで手がプルプルしている。


「マジかよ? あの女…」


シビレを切らした僕は聞いてみた。


「あの…なんて書いてあるんですか?」

「この手紙にはね…レイジくんをヨロシク頼むって書いてあるんだ」


ハナビートさんが手紙の内容を要約してくれた。ラブレターじゃなかったのか…


「サーディン、これは断れないな」

「わぁった、わぁったよ! んじゃ、レイジ…だったか?とりあえず話せよ。今までの経緯をよ。俺たちも詳しくは知らねーんだわ」

「う、うん」


僕はことの顛末を話した。

多少会話はチグハグだったけど、なんとか理解してもらえたようだ。


「…というわけで、僕の目的は2つあります。突然いなくなったじいちゃんの捜索と、原因不明の病にかかった妹の治療薬をもらいに来たんです」

「わかった、少し待っててくれ。ここのデータを漁ってみよう」


2人はさっそく、資料やデータを読み漁り、準備してくれようとしてくれたが…。


そして待つこと10分ほど。


「あちゃあ…」


ハナビートさんがポツリと声を漏らした。


「どどど、どうしたんですか?」

「伝えることが2つ。1つ、おじいさんの方はわからない。2つ。妹さんの治療薬は今ちょうど切らしてここにはない。すまない…」

「そ、そんな…」

「いや、カノンが処置したんだろう? ならここ一か月はもつよ。でもなぁ、最短で6日くらいかかるかな」

「6日? 6日もかかるの?」

「おまえ、タイミングが良かったな。明後日から航海に行く。そのときについでに必要なものも採ってくるからそれを待っとけ。それまでお留守番だ」

「そ、そんなぁ…」

「ま、俺も短い付き合いだけどな。まぁ、ジタバタしてもしょうがねぇさ」

「6日間も待たされて運がイイとか言われても…」


僕は不満だらけだった。しかも、面倒を見てくれる人がこんなライオンのたてがみみたいな髪型しているイジワルそうな人だし…。せめて…こっちのハナビートさんだったらいいのに…。


「ま、サーディン一人では心配だし僕も途中まで一緒にいるよ」

「あ、はい!」

「子守はゴメンだぜ…」


サーディンという男は後頭部をポリポリかきながら、困った表情で言う。


「まあ、とにかく…よろしくな、レイジ」


なんだか釈然としないけど…。

僕はとりあえずその男と、か・た・ち・だけの握手をした。


「で、さっそくなんだが、まず俺の家に寄り道してからでいいな?」

「うん、いいよ」

「僕は残るよ、サーディン。片付けも頼まれているから。中央広場で合流しよう」

「わかった」


にぎやかな大通りから分かれた道がどんどん細くなっていき、

道端のゴミや壁の落書きがイヤでも目についてくる。


(なんとなく空気も悪そうだ…)


決して裕福なものが住む場所ではないとわかる。

サーディンさんの家は、いわゆる1LDKという間取りである。

部屋の中は綺麗にしている、というより元々ものが少ない。


(この性格からして散らかっていると思ったけど…)


部屋のリビングには牡蛎のようなベッドと、武具や道具箱を収める棚と…床には体を鍛える用の筋トレグッズが4つころがっている。そしてこじんまりとした台所。

窓の近くの壁には僕よりも大きい剣や槍が飾られている。

あとは人間一人がすっぽり入れるような大型の洗濯機。それ以外はない。


「ずいぶん大きな洗濯機だね。家族で住んでるの?」

「いや? 俺一人だけど?」

「こんなに大きい洗濯機だからてっきり…」

「ふふん、ソイツは高性能洗濯機だ。服はモチロン、人間も洗ってくれるんだ。汚れ物はとりあえずそいつにぶち込んどきゃいいスグレものだ。乾燥もしてくれるんだぜ、スゲーだろ? シキっていう変わりモンから買い取ったんだよ」

「そうなんだ…他にはないの?」

「ねーよ。悪かったな!?」

「ふ~ん…部屋って、その人の性格が出るんだってさ。本とか図鑑はないの?」


さっきのこともあって、サーディンさんにイジワルく言った。


「へっ、学のねぇヤツの部屋なんざ、こんなもんよ」

「仕事はなにしているの?」

「お……俺はたま~に仕事を引き受けて生計たてている…感じ…かな」

「フリーランスってヤツだね。サラリーマンの父さんがうらやましがってたなぁ」

「らんす?まあ、俺は槍も使えるけど、どっちかっつーと剣の方が得意かな」


(ランスってそういう意味じゃないんだけど…)


サーディンさんは持っていた荷物をベッドに置き、その隣に腰掛ける。


「腹減ったな…よし! まずはメシだ! 腹ごしらえだ!」


妙案を思いついたように、彼は言い出した。


「え? まあいいけど」


(それ、完全にジブンの都合じゃないの…?ま、いっか)


僕とサーディンさんは家を出て、広場でハナビートさんと合流した。

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