第9話 君の声が聞こえる
夕暮れの光が、音楽室の窓から差し込んでいた。
柔らかなオレンジ色の光が、ピアノの鍵盤を照らし、譜面の影を揺らす。
「本当に、これでいいのか?」
俺は、歌詞が書かれた紙を見つめたまま、隣にいる佐倉を見た。
彼女は微笑んで頷く。
「うん。私の代わりに、みんなに届けてほしいの」
佐倉は、天性の歌声を持っていた。
澄んだ声が響くたび、教室の空気が変わるほどだった。
だけど——
事故で声を失ってしまった。
それ以来、彼女は歌えなくなった。
けれど、合唱コンクールのために、彼女は最後の曲を書き上げた。
『君の声が聞こえる』
佐倉が歌うはずだった曲。
「本当は、自分で歌いたかったでしょ?」
俺の問いに、佐倉は少し寂しそうに笑う。
「ううん。みんなの声で届けてくれるなら、それで十分」
彼女の瞳には、揺るぎない想いが宿っていた。
そして、コンクール当日。
ステージの幕が上がる。
客席には、佐倉の姿。
俺たちは、一つになって歌い始めた。
佐倉が紡いだ言葉。
佐倉が奏でた旋律。
俺たちの声が、彼女の想いを乗せて響き渡る。
そして——
最後のフレーズを歌い終えた瞬間。
静寂の中で、佐倉が涙を流していた。
彼女の唇が、そっと動く。
『ありがとう』
声にはならない。
けれど、確かに、届いた。
その瞬間、俺は思った。
声がなくても、想いは届く。
俺たちの歌が、それを証明したんだと——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます