第6話 放課後のバス停

 夕焼けが街をオレンジ色に染める。


 俺は、いつものように学校の前のバス停に向かって歩いていた。


 誰もいない静かなバス停。


 だけど——


「今日も来たんだね」


 そこには、いつもと同じ少女が座っていた。


 紺色の制服に、肩まで伸びる黒髪。


 彼女は俺がこのバス停を使うようになった日から、ずっとここにいた。


 不思議と話すようになったのは、自然な流れだった。


「今日の授業、難しかったね」


「数学のテスト、全然ダメだったよ」


 そんな他愛もない会話をするのが、俺の日常になった。


 だけど、ふと気づく。


 彼女は、バスに乗らない。


 俺が乗るバスを見送るだけ。


 なぜ——?


 気になっていたけど、聞けずにいた。


 そんなある日、思い切って尋ねた。


「……どうして、バスに乗らないの?」


 彼女は、少し寂しそうに微笑んだ。


「ここが好きだから」


 それだけ言って、夕陽を見つめた。


 けれど、俺は気づいてしまった。


 彼女の背後の掲示板に貼られた、一枚の古びたポスター。


『三年前の事故に関する情報を募集中』


 そこに書かれた名前。


 ——彼女と、同じ名前だった。


 目の前の少女を、もう一度見た。


 その姿は、夕陽に溶けるように薄れ——


 そして——


 俺の目の前から、消えた。


 ひらひらと、桜の花びらが舞う。


 彼女は、ずっとここにいたのだ。


 放課後のバス停で、誰かを待ち続けて——。


 俺は、その場に立ち尽くした。


 夕焼けが、静かに街を染めていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る