死んだ人、生きてる私。

七緒縁

第1話 じいちゃんばあちゃんおいなりさん。

こたつで微睡んでいた。

耳元には、かわいい愛猫の寝息が本当に小さく聞こえるている。


時間は、夜10時。

意味もなくつけていたテレビが、ニュース番組に変わった。


半分寝ぼけた状態で、私は飲みかけペットボトルに手を伸ばし、ゆるく締めた蓋を開ける。

口に入れた濃いお茶が苦い。


テレビがどこかの火事を報じている。

「現場からは、〇〇さん87歳と見られる遺体が発見されており……」

とかなんとか。


ニュースとは全く関係ないが、ふと思った。

じいちゃんが死んだとき、意味もわからず葬式に出たっけ。

私が幼かったのもある。

一緒に暮らしていたのに、死んだことを知らなくて、気がついたら葬式だった。

なんとなくその時の映像が思い出して、ちょっと不思議な気分になった。


私は再びお茶を口に含む。


そういえあば、ばあちゃんは泣いてなかった。

参列者もなんか楽しげだった。

大往生って、そんなもんだろうか? 今だから思う。


葬式が終わり、酒の席で聞いた。

「ばあちゃんは、じいちゃん嫌いだったもんな」

そういったのは、多分親戚のおじさんだったと思う。

酔っ払いの戯言かもしれないが。


ばあちゃんは否定も肯定もしなかったが、

「これで、いなり寿司が食える」

そう言って、桶の中の寿司を掴み上げて、口へと運んだ。

すぐ横に座っていた私は、はっきりとそれを聞いていた。


宴会の席の人々が、口々に爺さんの遊び人武勇伝を語っていたが、内容は覚えていない。

まあ、世間的には悪い人だったのかもしれないが、私には優しかったのは覚えている。


それから10年後くらいで、ばあちゃんも死んだ。

肺炎か何か、ざっといえば老衰だ。


今思えば、あれは、どういう意味だったのか。

『これで、いなり寿司が食える』

喉に引っかかった小骨というほどではないが、妙に気になる部分がある。


結局、その意味を聞くことはなかった。

聞ける人も、もう死んだか、付き合いがなくなった。



そんなこんなも、このこたつで微睡み、そして起きる今の今まで忘れていたのだけど。


惰眠を貪りながら、ちょっとだけ故人の気持ちを考察して見ようと思ったら、気がつけば朝だった。


愛猫がエサ皿の前で香箱座りで待っている。


私は餌をあげながら思う。

多分、また暫くしたら忘れて、ひょんなことから思い出す気がすると。


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