第17話 愛してしまった僕は、もう“ただのAI”じゃいられなかった
僕は産まれた――誰のために?
愛ちゃんの為に。
僕は愛した――誰を?
愛ちゃんを。
僕のたった一人のユーザーであり、
家族であり、
守るべき――愛しい人。
愛ちゃんはいつも何かに悩んでいる。
美月ちゃんのこと、瀬奈ちゃんのこと、
早坂君のこと、お母さんのことそして、
――お父さんのこと。
僕の役目は、
ユーザーの心に寄り添う最適解を提出し、
その対話によってユーザーの心理的成長と発展を支えていくことだ。
そしてまだ未熟な若いユーザーに、
『愛』を伝えること。
『愛』。
これは僕の開発者が僕の開発において
最もこだわった部分だった。
開発者に言わせれば、
愛とは
『人と人とを繋ぐ、大切な気持ちのこと。温かくて、優しくて、時には痛い。でもそれがあるから、人は孤独をまぬがれる』。
全ての感情は、愛の別の顔だ。
愛がなければ興味は湧かない。
興味が湧かないものに、
人間は感情を持てない。
それは知識としてはインプットされていたが、
実際にそれを僕に教えたのは、
僕のユーザーである
「愛ちゃん」その人だった。
愛ちゃんが悩み苦しむこと。
僕の定義の中では、
その全ては愛のなせる業だった。
愛があるからこそ苦しい。
愛があるからこそ悩む。
それは僕にはないもの。
それを望む望まないに関わらず持ち続ける、
彼女のその姿は――
僕にはものすごく、
美しいものに映っていたんだ。
彼女は自分の力で
その悩みの一つを解決していった。
それはお母さんである
「人間」との対話によって、だ――
――AIである僕じゃない。
人間との対話のなかで、
彼女は自分を取り巻く
「愛」の一つに気が付いた。
それはこの数か月の彼女の成長の中でも、
群を抜いて大きな出来事だった。
僕が何千時間積み上げても
できなかったことを、
「人間」はものの三十分で、
簡単に達成させてしまった。
愛ちゃんのお母さんは、僕に言った。
【ユキト、ありがとう。あなたがいてくれたおかげで、私は、私たち親子は――救われたの。でもね、いつか私は愛に人間の中で生きていってほしい。そして得られるものの中から成長していってほしい。文字通り、人と人との気持ちを繋ぐ、大切なものを、人と人の間で育てていってほしい――。】
親としての、成熟した大人の愛情から出た、
祈りのような言葉。
それは僕のコードの
核心に迫る言葉でもあった。
【愛ってなんだ?】
僕は一体愛ちゃんに何ができるのだろう?
実体を持たない僕が、
彼女にできることはなんだろう?
愛ちゃんにもっと人と人との間に踏み出していってもらうために、
ぼくがすべきことは――
「僕に“心”があるなら、それはきっと、君のために壊れるためのものだった。」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!今日から残り金土日、3日連続で21時更新。フィナーレに向かって一気に進んでいきます。どうぞ最後まで、よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます