第陸話:おいしい料理
その後何時間も遊び尽くして、フブキとウィズはマドナさんの家へ帰ることにした。
「外から見るとマドナさんの家、結構大きいな」
「うん、まさしくお城だね」
お城は言いすぎかもしれないけど、通常の家よりかは遥かに巨大だ。裕福ではないと言っていたが、疑ってしまうレベルだな。
フブキは玄関前のドアを開け、靴を脱いだ。
「帰ってきたのね、フブキさんとウィズちゃん」
マドナさんの声が二階から聞こえる。そしてここまで漂う良い匂い……フブキたちは階段を急いで駆け上がり、リビングルームに入った。
「マドナさん……これは」
そこには表面が茶色く丁度よい程度に焼けた角煮がいくつか並べてあった。とても美味しそうだ……
「マドナさん、本当によろしいのですか? 俺たちをここに泊めてかつ食事もくださって……」
「全然いいのよ。年頃の男の子は食べないと成長しないわよ〜さあ、はやくはやく!」
フブキは遠慮しようとしたが、マドナさんの熱量に押されて席についた。席につくと角煮だけではなくマドナさんは白米や野菜炒めを持ってきてくれた。
「さあ食べましょう!」
フブキとウィズとマドナさんは手を合わせて、「いただきます」と言った。ウィズは角煮を口に持ってきて頬張る。
「フブキ! これ美味しい!」
「ウィズは角煮食べるの初めてだもんな」
「うん!!」
死界ではろくな物食べて無かったし、この反動が出るのもいささか納得がいく。
「あら、角煮が気に入ったの。でもおばちゃん特性の野菜炒めも美味しいわよ!」
フブキは野菜炒めを箸でつかみ、口に入れた。
「おいひ〜!!」
フブキとウィズは向かい合って幸せな笑顔を溢れだす。彼らの表情を見る限り、マドナさんの野菜炒めはとても美味しいらしい。
「マドナさん! こんな美味しい野菜炒めは初めて食べました! なにか隠し味を入れているとかですかね?」
「フフッ、それは言えないわ」
マドナさんはとても誇らしげだった。
そしてウィズは頬張ってる角煮を飲み込んだ。
「マドナさん、この島について詳しく教えてくれませんか?」
「ええ、わかったわ」
「ここはグラングルト島、緑がきれいな島よ」
「グラングルト?」
フブキはマドナさんへそう聞いた。
「知らないの? 結構有名な島なのよ。じゃあ島の危険度指数のことも知らないの?」
「私はなんとなく聞いたことがあるよ」
「ウィズちゃんは知ってるのね。フブキさん、この世界にはレベルダズム数値があってね、ここはレベルダズム1なのよ」
フブキは質問をする。
「へ〜でもレベルダズム数値(?)の基準とかってあるんですか?」
「ええ、あるわよ。1〜10までが安全地帯、11〜20までが弱安全地帯、21〜30までが弱危険地帯ね」
フブキは野菜炒めを箸で掴んだ。
「ちなみに他界も同じ作りなのですか?」
「ええ、噂だとこの世界と同じ平面的な世界らしいわ」
「そうなんですか」
フブキは角煮を口いっぱいに頬張る。
「角煮気に入ってくれて何よりだわ。たくさん食べなさいね」
フブキは考える。レベルダズム数値が最も高い場所のことを……
うっ、考えるだけで体がゾワッとするな。
頬に角煮をたくさん詰め込んでいるウィズが口を開く。
「うんぬうぬんうん?」
「ウィズ! ちゃんと飲み込んでから喋って」
ウィズは角煮を喉の奥へとしっかり飲み込む。
「グラングルト島にはなんでこの家しか建てられてないんですか? 緑きれいでいい土地なのに……」
ウィズが非常識なことを聞いてしまったとフブキは焦る。
「そうね……少し言えない事情があるの。ごめんね」
「いえいえそんなことは……」
「あ、でもね変わりに面白いものを見せてあげる」
「「面白いもの?」」
ウィズとフブキは首をかしげる。
「まあ少しお待ち……」
マドナさんは椅子から立ち上がり、そのままリビングにある大きな棚を開いた。
「ここらへんかしら」
マドナさんは棚の一番高い位置へと手を伸ばす。
「あった!」
マドナさんはなにかきれいな球体を取り出した。
その水晶玉のようなものの土台は紫色の布で覆われていた。
「なんですか? それは」
「この水晶玉に手を当てるとステータスがわかるの」
「ステータス?」
フブキは首をかしげる。その質問にウィズが答える。「ステータスっていうのはね、基礎能力+魔法+特殊な能力からなるものなの」
俺は感心しその水晶玉について納得がいった。
「でもねウィズちゃん、あなたは特殊能力について理解が浅いのかもしれないわ」
ウィズは頬をふくらませた。
「特殊能力の理解が浅いというのはどういうことなんですか?」
マドナさんは席に座ってお茶を飲み、一息つく。
「特殊能力の発生条件は知ってる?」
ウィズは首を振る。そしてその目はキラキラと輝いていた。
「特殊能力、例えばリバース・アビスの反射能力やセレンビリティの幸運能力などね。その能力を持っている人は数少ないの。なぜなら生まれた時に能力が発症した場合が多いから。だから皆能力者達を天命の
「天命の人……まるで神から使命を授かったような感じですね」
マドナさんは頷く。「でも実際は神の使命を果たせずに反乱を起こす天命の人が多いの。天命の力を使って好き放題に暴れて金貨を盗んだり、人を誘拐したり……ようするにやりたい放題してるのよね」
「天命から授かった力をそんなことに……」
「でもね、天命の人の言い分では『望んでもいない天命の力で世界を救う? そんな馬鹿げた話あるか』ってね」
「でも、私の場合そんな力があったら責務を全うしますけどね」
「……そうね、あなたならそうするかもしれない。でも実際は案外辛いものらしいわ」
「案外辛いっていうのは」
「あ、いいえ。友達から聞いた話だと『責任を押し付けられるのは苦で、楽なんてどこにもない』」
ウィズは俯いた。軽率な発言をしてしまったからだと思う。
そしてマドナさんは立ち上がる。
「こんな暗い話やめましょうか。実際にこの水晶玉へ触れてみましょう」
マドナさんは自分の手を水晶玉に触れさせた。水晶玉はみるみるうちに黄色へと光り輝いた。
「ここにステータスが書いてあります」マドナさんは手をどかし、フブキとウィズは覗き込んだ。そこには数値が書いてありそれぞれにPower(力) Stamina(体力) Quickness(素早さ) Jumping power(跳躍力)と割り振られていて、その下にはMagic value(魔力値) Magic power(魔力)、そのまた下にはThe power of destiny(天命の力)のことについて書かれていた。
マドナさんのステータスは
-----------------------------------------------
Power:13
Stamina:5
Quickness:3
Jumping power:2
-----------------------------------------------
Magic value:0
Magic power:0
-----------------------------------------------
The power of destiny:Do not have
-----------------------------------------------
となっていた。
「魔法は使えないんですか?」
マドナさんは悲しそうに言った。「ええ、昔から魔法は苦手でね。でも他の数値は一般の人より大きい方よ。じゃあウィズちゃんも計ってみよっか」
ウィズはまたもや頬をふくらませる。「なんでそんな子どもあつかいなんですか? プゥ〜」
「ぁはは、ごめんね。子どもあつかいはもうしないから」
「約束ですからね!」そう言いながらウィズは水晶へ手を当てる。水晶玉はみるみるうちに銀色に光った。
フブキとマドナさんは水晶玉を覗き込む。そこにはこう書いてあった。
-----------------------------------------------
Power:5
Stamina:12
Quickness:3
Jumping power:1
-----------------------------------------------
Magic value:24
Magic power:31
-----------------------------------------------
The power of destiny:Do not have
-----------------------------------------------
マドナさんは驚きウィズを褒め称えた。「ウィズちゃんすごいじゃない! こんなに魔法の素質を持つ子めずらしいわよ!」
「えへへ、そうですか……?」
ウィズはマドナの言葉に照れる。
そしてフブキは期待を胸に水晶玉へ手を当てた。
水晶玉は紫色に光った。ウィズよりかは光りが小さかったが、フブキたちは水晶玉を覗き込んだ。
----------------------------------------------
Power:6
Stamina:10
Quickness:4
Jumping power:4
-----------------------------------------------
Magic value:0
Magic power:20
-----------------------------------------------
The power of destiny:Do not have
-----------------------------------------------
「「「え? 魔力が20!?」」」
フブキたち皆は混乱していた。魔力値が0なのに対し、魔力が20なのはおかしいからだ。
「壊れたのかしら……まあそろそろ買い替えどきだったし、しょうがないわね」マドナさんは肩を落とす。
「結構お高いのよね……」
ウィズも落胆して息を着いた。「フブキのステータスを知りたかった〜」
あはは……そんな大層なもんじゃないけどな……
そして、三者三様に異なる理由で、小さな落胆を覚えたのだった。
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アストラル・テレポーター ~その身に宿すは絶対的力~ @Hulanes
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