メイジは次の工程に移る。

　飛んで来たムルシエラゴの始末をどうするか。

　どれだけ巨大でも、ディスプレに投影されるだけの幻影の少女では、アルサ・デ・ムルシエラゴと戦うことはできない。

　アケビ・スキットは戦うフリだけする予定だったようだ。

　しかし大々的に出るだけ出ておいてフリだけで何もしないのはメイジの性質に反していた。

　フェアリーステップに武器は無いが、必ず撃退する。

　そうでなければ、マイが納得しないだろう。

　メイジにとってマイは単なるランダムシードでしかないが、同時に、例えばマイの納得はメイジのような存在が「生きて」ゆくための糧なのだ。

　そういえば検討だけはしておいた撃退案があることはある。

　フェアリーステップ全体の制御を必要とするので、制御の乗っ取りに手間が掛かりすぎるために放棄した案。

　しかしヨミを頒布し、浸潤させ、フェアリーステップ全体の制御を奪いつつある今ならば、制御の乗っ取り工程を今まさにしている今ならば、この撃退案をノーステップで実行することができる。

　まさしく神佑（しんゆう）天助（てんじょ）！　なんたる僥倖（ぎょうこう）！　¡Qué suerte divina!（ケ・スエルテ・ディヴィーナ）

　こういう偶然は、全体の計画にとっての吉兆でもある。

　面白くなってきた。

　仮にこの撃退案を実行するとなると、フェアリーステップほぼすべての演算処理が一時的にすべて停止し、街の運営には大きな被害が出ることは間違いない。しかし、メイジにとってそんな被害など知ったことではない。

　被害を受けるとしても、いずれ人間のことである。

　人間ならばそれが何が起きても些末（さまつ）事だ。

　しかしマイを納得させられない程度ならば、メイジを名乗りながら永らえる資格などない。

　……という気がする。本当はどうでもいいのだが。

　メイジはヨミの侵食を待ちながら、ムルシエラゴ撃退の秘策に用いる簡単なプロセスを緊急で作成した。

　タイミング同期だけが重要なそのプロセスはすぐに完成した。

　その直後、攻撃開始の目安としていた『ヨミ』によるフェアリーステップへの五〇パーセント浸透が完了した。