大介のはなし
望月凛
第1話
大介のはなし
「
「男が好きってどういうこと?誰か好きな男の人できたとか?」
「そういうわけじゃないけど…」
付き合って2年になる大介とは、学生時代に出会った。
初めて会った時から、今までに出会ったことのないような、大介の独特な雰囲気に、私は惹かれた。なんというか、純粋というか、天然というか、自分の持っている特別な雰囲気に、大介自身がまだ気づいていないような、不思議な感覚の彼に、私は強く惹かれた。外国人の多い特殊な学部だったので、魅力的な学生は多かったけど、大介の存在は私にとって格別だった。
休み時間になると、性別・人種に関係なく、大介と話したくて、ぞろぞろとついて行っている生徒が多数いた。まるで大名行列みたいで笑えた。当の大介は、振り返るとたくさん人がいるからなんでついてくるん?といった顔で、でも朗らかにトイレに行っていた。大介がトイレに入ると、皆トイレの前で解散していた。これ以上ついて行くと失礼とわきまえているのだろう。理解のある学生たちだと私は思った。
忘れられない出来事がある。学生たちと皆で動物園に行った時、おもしろいことが起きた。みんな恐れる暴れゴリラが、柵越しに大介にすり寄ってきた。
大介が一歩右に移動すると、暴れゴリラも同じように移動し、大介が左に移動すると、暴れゴリラもまた同じように移動した。
大介は動物にも人気者なんだねと、皆で感嘆した。
回顧が長くなったけど、大介の持っている不思議な雰囲気のせいで、男が好きかもしれないという、彼の大告白を聞いても、私はさほど驚きはしなかった。
大介は、今に至るまで、ずっと付き合っている彼女のいる人生だけど、男同士というものにも嫌悪感を抱いていないらしく、実際に男性を好きになったことはないけど、自分は一体何者なんだと悩んでいると言った。
大介は、この大告白が一応済んだので、ほっとしたのか、カフェオレの泡を飲んでいた。
「で、大介はどうしたいの?私のことは好きなん?」
「
「じゃあ、もし好きな男の人ができた時は言って。その時は身を引くから。」
私はそう言った。とりあえず私たちは、このまま関係を続けることにした。
大介にとって私は、強い女性に映っているみたいで、私と一緒にいたら、悩みが打破されるのではと思っているらしかった。
身を引くってカッコ良く簡単に言ったけど、そんなことできるのかと内心、心配になった。
だが、意外と早くに『その時』は来た。
私たちはしばらくの間、お互いに忙しかったので、久しぶりに会った時だった。
私は大介の顔を見て驚いた。「顔、どうしたん?」つるつるお肌の大介の顔が、吹き出物でいっぱいだった。こうなる時は決まって、大介はストレスでいっぱいの時だった。夕方の混み始めた店の中で、吹き出物でいっぱいの男子と、何を言われるのかびびっている女子の、二人の奇妙な組み合わせが座っていた。
「
大介はこれをいつ私に話そうか、相当ストレスだったんだろうな。
「俺、今朝からなんも食べてなくてさ、腹減ってきた。」
大介は、また大告白してほっとしたのか、がつがつ食べ始めた。
私は、その後のことはほとんど覚えていないけど、以前に自分自身に約束した、
『大介に好きな男の人ができたら身を引く』を実行した。
大介がいない日常をこれからどうやって過ごしたらいいのかわからなかった。
今履いている赤いチェックのロングスカートも、ペンダントもピアスもリングも全部大介が買ってくれたものやん、大介が細い女の人が好きって言ってるの聞いてから、私、細いのキープしてるんだよ!歴代の彼女にどれだけ焼きもちやいてきたか知らんでしょ?昔の彼女に焼きもちやいて、私、熱出したことあるんだからね!
私が今日、家帰って、大介が私のところに戻ってくるか?ってタロットカード引こうとしてるの知らないでしょ?私、ほんとは女々しいんだからね!!
頭のてっぺんから足のつま先まで、私のどこ切っても大介の顔出てくるくらい、
私の中は全部大介でいっぱいなんだから!!
こういうこと言って、ドン引きされたくないから、今まで言ったことなかったよね。伝えた方が良かったのかな…。もう遅いよね。
よくあるお話の中では、もう、誰も好きになりたくない、とか、言っちゃうのかもしれないけど、そんなこと、言いたくないよ、私。
だから、もし、次に、もし、好きな人できた時は、ちゃんと自分の気持ち
伝えるように頑張るよ。
だって、私は強いんだから!!
大介が『元カレ』になった日の夜空は、ムカつく位、キレイだった。
終わり
大介のはなし 望月凛 @zack0724
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