春は明けぼの

蠱毒 暦

無題 奇跡の代償

秘密の場所…廃ビル前で気持ちが抑えられず、彼を置き去りにして、わっちは駆け出していた。


今頃…坂月と生徒会長さんが、いい感じの雰囲気で、大きくて綺麗な桜を見てながら、美味しいお弁当を食べている…と思ったから。


ま。その勘は見事に裏切られちゃったけど。


「…帰ろ。坂月も…誰もいなかったから。」


「は?」


わっちは元気に笑ったと思うけど…彼からは、どう映ったんだろう。とにかく誤魔化さないと。


「全部食べちゃったんじゃないかな。明日、文句を言えばいいんだよ。」


「でも、伝言の一つくらい残して…っ!?」


秘密の場所に先に到着していたわっちは、困惑する彼の腕を掴み、強引に一緒に帰る。


(あんなもの…見せられない。)


3色団子が落ちていた桜の木の後ろで、手を握って、寄り添って死んでいた2人の事を。


……


朝。寝坊しなかった事を母さんと父さんに褒められながら、一緒に朝ご飯を食べて、身支度を整えた後、少し早めに学校に行く。


その途中…白い花を見つけた。しゃがんで、じっと見つめていると、かけていたスマホのアラームが鳴る。登校時間がギリギリになっていた事に気づいて、花達に小さく手を振った。


わっちは、今日も学校に行く。


……


2人が欠席だった事に文句を言い続ける彼を宥めていると、気づけば下校時間になっていた。


いつもなら、彼と一緒に帰るけど…適当な言い訳をして、1人で帰る。


学校の隣にある工具店でシャベルを買った後、秘密の場所に入り、正面にカバンを置いてから、大きな桜の後ろに回った。


「………。」


泣かないのは、きっと…わっちの気持ちの整理が追いついていないからだ。


目を閉じて手を合わせた後…コンクリートが砕け、露出した地面にシャベルで穴を掘る。


肌も金髪も制服も、土で汚れていくが、わっちは、堀り続けた。


「…あ。」


掘っている地面がよく見えず、顔を上に向けると、既に日が落ちていた。


作業中断。いそいそと掘った穴から出た。


「…浅い。」


1日でどうにかなるものではなかった。これが女子高生の限界なのかと痛感する。彼がいたら…もっと早く……


そんな誘惑を両頬を叩いて、物理的に鎮める。


「…ふぅ。」


真に苦しむべきなのは…会話を盗み聞きした挙句、勘違いしていて、止めずに後押しをしてしまった…わっちなのだから。


……


朝。早く目覚めて…家族と食事をした後、学校に行って彼と会話をして、放課後。今日も1人で秘密の場所に足を運んだ。


「……よし。」


2人の腐敗が進む前に…何とか掘り終えないと。


「警察にも通報せず、せっせと死体遺棄か。当時の俺を悲しませたくない為に。」


「……!?」


顔を上げると、何処か彼の面影を感じるような年上の研究員っぽい服装の男が胡座をかいて座っていた。


「さて…こちらも果たすとしようか。」


ポケットからスマホを取り出して、誰かと連絡を取っている。数分後…話し終えたのか、通話を切ってポケットに仕舞った。


「ま、待って…私は、」


「安心しろ…通報はしていない。ただ助っ人を呼んだだけだ。」


男は立ち上がって、ここから離れていく。


「どこに…行くの?」


「俺はこの場に長居しちゃいけないからな。お前は少しは人を信用しろ…特に友人とかな。」


鋭く眩しい光と強風で目を閉じる。


「お前が秘密の場所にいるって連絡を聞いて来たが…ん?何で、土まみれなんだ。俺に秘密で宝探しでもやっていたとか……は?」


「……。」


目を開けると彼がいて、男の姿はなかった。桜の側にいる2人を見て、目を見開いて…明らかに激情を露わにしていた。


「どういう事だ。これは…」


「その…」


「いやいい。お前がやっていてもいなくても、この行為は立派な犯罪だ。警察に通報させて貰う。精々、罪を償え…」


わっちはスコップを投げ捨てて、スマホを取り出した彼にしがみつくように抱きついた。


「違う…違う!!わっちは、ただ…」


「ただ?」


「…悲しむ姿を見たくなかっただけで…元々、わっちの責任だから…うん。」


でも罪を償った所で、元には戻らない。時間は前にしか進まない。決して、後ろには…戻ってくれない。


やっとわっちの脳が、2人が死んだ事を理解して、崩れ落ちて…泣いた。


「ごめん…ごめんなさいっ…わっち、わっちが唆さなかったら……」


「……はぁ。」


彼はスマホをポケットに仕舞った。


「絶望、喪失感…それに浸るのはまだ早い。」


わっちは涙を拭いながら、顔を上げた。


「……ふぇ?」


「喜べ…俺達にはまだ、挽回の余地が残されている。道中で、お前に似た女に会って聞いたんだ。かなり荒唐無稽な話でかつ修羅の道だが、付き合ってくれるなら、」


わっちはすぐに立ち上がって、頷いた。


「判断が早くて助かる。」


「わっちは、何をすれば…いいの?」


「そうだな。まずは死ぬ気で低空飛行を続けている学業に打ち込んで…成績アップから始めよう。」


「……?」


「そして…その果てに必ず。」



——タイムマシンを作り、2人を救う。



………


……



それから6年後。秘密の場所…否。研究所にて。


「ここまで…長かったな。」


「うん。」


残りの青春、友人関係…楽しいイベントを2人を救う為に全てかなぐり捨てて、研究に没頭した事で出来た、桜の木の前に鎮座された小さな飛空挺…『タイムマシン』を見て私は微笑んだ。


「時間を遡れさえすれば、無理に小型化する必要はない。よし確認するぞ。持ち物は…」


「解毒薬が入った注射器…だけでいいんだよね。」


「そうだ。俺の見立てが正しければな。」


会長さんと坂月の死因は、毒が盛られた3色団子。


「ああ…お前の家の冷凍庫に入れていた事には、驚かされた。」


「…や、やめてよ。知らなかったんだから…」


わっち達は、暫く無言で満天の夜空を眺めた。


「よし……行こう。」


「まずは、全ての並行世界を救いに…ねっ?」


「勿論だ。こんな結末…不幸の連鎖を、俺達は認めはしない。」


………


……



——先輩が生きて、皆が幸せになれる世界を…あれ。


あれ、あれ…あれあれあれ……どうして。


「…先輩?」


揺さぶっても目覚めない。僕は一体何をしたんだ。記憶が…いや。


認めろ。僕が殺したんだ。世界を救う為に、彼女の願いを叶える為に…僕は、愛した人をこの手にかけた。


「あは、あはは…そうだ。そうだよ。」


これで僕は用済み。世界を救った英雄は、後の平和な未来では、無価値で不要。


せめて、残った弁当や彼女が吐いた吐瀉物で汚れたレジャーシートを適当な隅っこ片付けて…彼女を顔を丁寧に拭き取った。


すぐに友人達がやって来る。せめて、後片付けくらいはしな…


「……っ!?」


激しい光や衝撃で起きた強風と共に、天井が砕け、誰かがこちらに飛び降りて来た。


「会長さんは!?!?」


「え、あ…」


「見つけた…!待ってて…」


僕が知る未来では、とっくに死んだ筈の女性が、彼女に駆け寄って…持っていた注射器を使った。


「息はある。お願い……間に合って……!!」


「な、何をして…」


駄目だ…救ってはいけない。彼女はいずれ世界を滅ぼす物を発明する。だから…ダカラ。


女性に近づいて気づかれないように、ゆっくりズボンから果物ナイフを取り出した。


殺セ…殺セ…殺セ。ソシテ…僕モ死ネ!!!!世界ヲ皆ヲ救ウ為ナラ…僕ハ!!!!!


「おっと、やらせないよ。」


「…ッ。」


背後から羽交締めにされて、僕は動揺する。


「殺サナイト、コノ世界ハ…終焉ヲ迎エテシマウ。僕ハタダ…正義ヲ成ソウトシテイルノニ…ドウシテ!?」


「生徒会長を殺めて、その償いとして、自分が死ぬって事が『正義』か…坂月。お前は残された者達の事を考えた事はあるか?」


「…何ノ話ヲ?」


拘束が解かれた瞬間、回し蹴りが炸裂し、果物ナイフを落としながら、床を転がった。


「ッ…アグッ…」


「力なき正義は無力だ。ほら…」


落ちていた果物ナイフをこちらに投げ渡した。


「来いよ。目…覚まさせてやる。」


「邪魔スルナラ…容赦ハシナイ。」


……


「…ここは。」


「!!起きた…やっと……良かったよぉ…」


目覚めて早々、誰かに抱きつかれた。


「く、苦し…ギブ、ギブ。」


「あ…ごめん!」


視力は高い筈なのに、視界がぼやけていて、姿はよく分からないけど……


「何かが…」


「……坂月。」


……



果物ナイフは一度も掠りもせず…ただ蹴られ、殴られる…そんな、一方的な戦いだった。


「…お前は世界を救う『正義の味方』なんかじゃない。忘れたか?」


「僕、僕ハ…!!!」


膝蹴りが腹部に直撃して、片膝をついた。


「最高の料理を振る舞う、料理研究部の部長にして俺達の友人。坂月 ただしだ。それ以上でもそれ以下でもない。」


下顎を蹴られて、宙を舞い…何度も転がって、大の字で倒れた。


「いい加減……目。覚めたか。」


「…………うん。」


坂月の目からは涙が流れていた。


「…けど、このまま行けば……皆。皆、死んでしまうんだ。2人だってぇ…。」


「なら単純明快。そうならない未来を模索すればいいだけだろ…まあ、そこはお前に任せるよ。流石に俺は疲れた。」


不意に力が抜けて、坂月の隣に倒れた。


「どうして、急に体が光って…」


「無限にも等しかった全ての並行世界を巡り、未来を完全に変えたからだろうな。俺もあっちにいる彼女も…世界の異物として、じきに消されるだろう。」


死ぬ…そう分かっているのに。俺の気持ちは晴れやかだった。


俺は首を坂月に傾ける。


「1つだけ、約束…してくれないか。」


……


「ちょっと、しっかりしなさいよ!!」


消えていく…そっか。ついに、未来が完全に書き変わったんだ。


「…会長さん。坂月の事…この先、何があっても側で支えてあげてね。」


「え、ええ!?……う。」


パタリと会長さんが倒れた。


わっちの解毒薬に混ぜた薬が効いたんだ。これで会長を幸せにするのも、しないのも…全ては坂月次第になった。


「…うん。これで…また、リスタートだね。」


倒れたまま会長さんの髪を優しく撫でて、拳を上に突き上げて、わっちは高校生の頃のように明るく笑った。



——あ。副作用については、許して欲しいな。



……



「よっし、3番乗りで到着〜あれ?レジャーシートなしなの?」


「はぁ…はぁ……まだ、残ってるか!?」


「料理はまだまだ沢山あるから…ほら、2人も座って。」


「ま。少しくらい汚れてもいっか☆ねえ、会長さん、綺麗な桜でしょ?」


「そ、そうね…でも。」


「校則違反…だなんて言うなよ。ここは俺達の秘密の場所で、お前は招かれている立場なんだからな。」


「花見を楽しんでる時点で、同罪だよね!」


「…うぅ。どうして、こんな目に……」


形はどうあれ、花見を楽しんでいる姿を見て、僕は笑う。


「ああ!?また、数が少ないウィンナーを…!!!」


「こほんっ…呼ばれたからには、それなりの誠意を持って、食べているだけですが何か?」


「ほほう。ウチの生徒会長様はどうやら、バランスよく食べず、1つの料理に固執する食べ方がお好みらしいな。」


「へぇ…そう言うあなたは、料理をよく噛んで食べていませんね。何を焦っているのですか?こんなに沢山あるというのに。」


「「…………」」


「食事はこうして楽しく団欒が1番だよね〜♪坂月…このサンドイッチ食べる?」


この先ずっと、皆の笑顔を守る為に…決意を新たに。未来を変えてくれた2人に感謝しながら。


「…相変わらず、食べ始めが遅いな。おい坂月!味噌汁の加減が絶妙だ。飲んでみるといい。」


「た、タコさんウィンナーもいけるわよ。口を開けなさい。いつまでも私達を見てるいるだけじゃ、面白くないでしょ?」


「えっ…会長さん?」


「おい。俺に差し出してどうする……校則を破ったからって、目でもおかしくなったか?生徒会長様は。」


「…そ、そそ、そんな訳ないでしょう!?!?元々、視力が高かった私がここに来た時から、何故か景色とかが、もの凄くぼやけて見えてるだけだから…はぁ。コンタクトでも買おうかしら。」



——毎年、4月になったら皆とここで、花見をしてやってくれ。



(はは…こんな量を毎年作るのか。来年からは食費は皆で折半にしよう。)


僕は手を合わせて、未来を変えて消えていったあの2人にも聞こえるくらい、大きな声で。


「…頂きます!!!!!」


3人がびっくりしているのを他所に、僕は自分の箸を手に取り、卵焼きを頬張った。


                   完




































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