スケープ・シープ
@kurokiG
第1話 羊のタトゥー
俺は人を信用していない。
いや、できなくなったという方が正しい。
自分の記憶には家族がいなかった。母はものごごろ着いた時には死んでいた。父は一人で自分を育てるために一生懸命働いていた。
皮肉なことに父が家族のために頑張るほど、家庭に帰る時間が減っていった。
家ではいつも一人だった。
そんな父も自分が高校生の時に失踪した。
自分は本当に一人になったのだ。
手元の写真を見つめ、目の前の景色と重ね合わせる。写真には色鮮やかな遊具の前でポーズをとる笑顔の父親と小学生の自分が写っていた。
目の前の景色には錆びれた遊具だけが残っていた。失踪した父の手がかりがないか久しぶりに訪れてみたが、ただむなしい感情だけが手に入った。
「ほら、早く出せよ!!」
公園には似つかない高校生の罵声が飛んだ。
どうやらヤンキー3人が一人の高校生を囲んでいた。
どこからどう見てもいじめだ。こういう光景を見ると、一層人を信用できなくなりそうだ。俺はヤンキーに向かって歩き出した。
正義感ではない。父が見つからなかった苛立ちが募り、誰かにぶつけたくなった。
ヤンキーに声をかけようとした瞬間、目の前に女性が割り込んできた。
「ねえねえねえ、出すって何を出すの。もしかして鳩!いいよね鳩!」
えんじ色の軍服風のジャケットを羽織った女性がすごいテンションで話しかけていた。
顔には張り付いたような笑顔があり、目は冷たく光っているように見えた。
「黙ってろババア!気色悪いんだよ!」
ヤンキーはその女性に怒鳴りつけた。
当然の反応だろう。女性は貼り付けた笑顔のまま狼狽えだした。
「ねえねえねえ、もしかしてババアって私のこと?そんなことないよね。私はピッチピッチの23歳だぞ!」
「そうだよ!お前だよ!この気色の悪いババアが!」
再びヤンキーが怒鳴った。そして、おそらくリーダー格の男が女性に迫っていた。
すると女性は声を出して笑いだした。
「なるほど!分かったよ!君は眼が悪いんだ!そうでしょ。だから私がババアに見えるんだよね。そうに違いない。かわいそうに、そんな眼をもって。そんな眼はいらないよね。」
女性はポケットからハサミを取り出してヤンキーの目を突き刺した。
リーダー格であるヤンキーは大きな声を上げて目を抑えている。
他のヤンキーはとっさに女性に殴りかかるが、女性はそれをかわして腹部にハサミを突き刺した。
「なんなんだよこいつ!」
ヤンキーは一斉に逃げ出した。
助けられたはずの少年も恐怖に怯えた目で女性を見つめ、逃げ出した。
女性は振り返ってこちらを見る。
「ねえねえねえ、君はどう思う?私はババア?」
「そんなことないですよ。あなたはお若く美しいです。」
女性はわざとらしく喜んだ。ニコニコしたままそのまま帰っていった。
ヤンキーが女性に襲われる。人は見た目で判断できない。
「やっぱり、人は信用するものではないな。」
気が付くと、もう夕方になっていた。
ふと、ヤンキーが残していったタバコの吸い殻が目に入った。
吸い殻を拾い周囲を見渡す。この公園はごみを収集する小屋があったはずだ。
今日は回収日ではないが、ポイ捨てするよりはマシだろう。
小屋を見つけ出し、扉を開けた。
「きゃあ!」
扉の中には女性がいた。女性は自分の前に手をかざした。
ドン!!
体に強い衝撃が走った。
気が付いたら5mほど自分は吹っ飛ばされていた。
もう一度その女性を凝視する。女性はオレンジ色のつなぎのようなものを着ていた。しかし、なぜか右肩が破れている。
その方には見覚えのある羊のタトゥーが入っていた。
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