第17章

誰もいなくなった、静かなヒーロー基地。そこには未無と長官、2つの影があった。

未無:長官。長官なら知ってるでしょ?僕の正体。

長官:あぁ、知ってるよ。「Mother AI」、通称「MAI」。

MAI:そう。それこそが僕の正体。僕、通称「MAI」は、全世界のお偉いさん方と繋がってる。だから、長官。君は僕に逆らえないんだよ。僕に、というよりは上層部に、だけど。

未無…否、MAIは、長官を嘲笑するかのように言った。

長官:ヒーローたちに残酷な決断を迫ったこと、どう思ってるんだ?

長官は冷たい声でそう言った。

MAI:悪いなぁ、とは思ってるよ?けどね、それと同じくらい、感謝もしてる。だって、僕1体だけ生き残ったところで、できることなんてたかが知れてるし。

MAI:(長官はただただ冷たい目で僕の事を見てた。その心は、復讐に燃えているのかな。それとも、涙で濡れているのかな。まぁ、そんなことAI軍の残党である僕には、どうでもいいこと、なんだけどね。)

MAI:じゃぁ、そろそろ始めようか…。

MAIの背中に、ホログラムの翼が生える。ホログラムの翼が、MAIの体を宙に浮かばせる。

長官:AI Towerのトップとは、やはり違うようだね。

MAI:一緒にされちゃぁ、困るよ。だって僕はMAI。「Mother AI」なんだから。

MAIは長官に向けて、空間を切り裂く大量の弾幕を流し込んだ。

長官:っっ!!!

長官は、MAIの弾幕をすれすれで避け続ける。

MAI:こんなので倒れないでよ?長官。

MAIは空に向けて手をかざす。すると、MAIの手のひらから、MAIの中にある大量の知識たちが、球体となって空に浮かんでいる。

長官:弾幕を避け切ったと思ったら、なんだ、それは…。

MAIの手のひらの上にある球体を見た長官の顔が、青ざめていく。

MAI:何も、言えない…言葉が出ない、簡単に言えば「絶望」ってとこかな?そんな長官に説明しておくとね?この僕の手のひらの上に浮かんでる球体は、例えて言うならば知識の塊。しかも、僕の中に常に流れ込んでくる、それはそれは膨大な量の知識たち。そんなものの塊が、自分に落ちてきたら?まともに喰らっちゃったら?その末路は…馬鹿な長官でも、分かるよね。

長官:…脳が、停止する。

MAIの手のひらの上に浮かんでるものを見た長官の顔は、真っ青だった。

MAI:アンサーをどうもありがとう。そんなわけで、あの世に、いってらっしゃーい!!!!

そう言って、MAIは、手のひらの上に浮かんでる球体を…知識の塊を長官に思い切り投げつけた。知識の塊は空から地面へと、息つく暇さえ与えないくらい、素早く着地した。

MAI:バイバイ、長官。

「バイバイするのは、お前だ。MAI!!」

MAI:この声は、氷凍か。今更、何の用?長官は、脳が停止してるっぽいけど。

氷凍:お前の中の、未無に、逢いに来た。

MAI:…今更。ほんと今更過ぎるよ、氷凍。未無は、もういない。記憶ごと消したからね。

氷凍:そうか…。でも知ってるんだぜ、お前の弱点。

MAI:…ほう。聞かせてもらおうかな?

MAIは氷凍の方へ向き直る。

氷凍:お前、異能が効果ないっていうの、嘘だろ。

MAI:っ!!な、何言って…!?

氷凍:未無としてのお前と初めて会った時、その時は戦場の最前線だった。あぁだこうだ、いろいろ話してんのが長官に筒抜けで…戦のあと、注意されたっけ。…でも、今はそんなのどうでもいい。思えば、あの時から、全部嘘だったんだろ。何なら、この世界は全て、お前の手の中…なんだろ?

MAI:ここまで…ここまで辿り着いたのは君が初めてだよ、氷凍。君の言う通り、僕に異能は効果抜群だし、未無として逢った時から全て嘘。ヒーローたちと会話したのも、戦ったのも、思いの丈を吐き出したのも…。全部、ぜ~んぶ嘘!!

翼をはばたかせながら、高笑いをする僕に、氷凍は話しかけた。

氷凍:何故だ。何故、そんなことをした?

MAI:その答えは単純明快。君たちと遊びたかったから。でも、思ったよりもつまらないね。人間ってのは。僕が思っているより…ずっとつまらなかった。

氷凍:お前が思っていた人間の形、って何なんだ?

MAI:そうだね。僕が思っていたのは、今よりずっと感情的で、大事なもののためならどんな犠牲をも厭わない…そんな人間。

氷凍:そうか…。だったら…確かに、お前には分からないだろうな。「人間として生きる楽しさ」が。人間の命、魂は、1人1つ。それを大事に抱えて生きるから、人生に深みが出るんだ。永久不滅のお前には、その深みポイントがないから、つまらないって感じるんだよ。

MAI:確かに、人生の深みポイントは僕にはない。人間じゃないからね。…だけど、君も分からないでしょ?AIが人間として生きる、言ってしまえば「周囲を欺く楽しさ」が。

氷凍:分からないな…分かりたくもない。

氷凍は冷たくそう言った。

氷凍:…なぁ、こんなことAIに聞くのもおかしいかもしれないけどさ。お前は、人間になれるとしたら、なりたいか?

MAI:…本当のことを言うと、なりたい。人生の深みポイントって奴?それを探し回りたい。

氷凍:だったら、そうすりゃいい。

MAI:…は?何、急に馬鹿になったの?君。

氷凍:馬鹿になってねぇよ。例え、永久不滅だろうと、AIだって1体に1つの魂、だろ?

MAI:それは、そうだけど…。だったら、何?

氷凍:だったら、今から探し回ればいいじゃねぇか。お詫び行脚も兼ねてな。

MAI:ん~…。すこぶる納得いかないけど…分かった、そこまで言うなら。「舞」として、生きていこうかな。

氷凍:分かった。じゃぁ、改めて。よろしくな、舞。

舞:うん。よろしく、氷凍。

氷凍:それじゃぁ、今日はとりあえず解散!!

舞:うん。…あ、ちょっと待って!

舞は咄嗟に氷凍の服の袖を引っぱる。

氷凍:ん?なんだよ…。

舞:ありがとう、「人間としての」生きる意味を見出してくれて。

氷凍:べ、別に何もしてねえよ。

舞:そう?でも、それでも…ありがと。

氷凍:はいはい。ってか、もうちょっとそっち側歩けって。

舞:はいはい…。

2人は微笑みながら、氷凍の部屋に着いた。

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