自称女流作家とルームシェアをすることになったお話

達見ゆう

第0話 ある女流作家の嘆き

「えーん、また叩かれているぅ」


 和葉さんがノートパソコンの前で嘆いている。私は彼女の嘆きをよそに画面を覗いた。

 予想通り画面はWeb小説投稿サイト。当時のペンネームではひっかかって登録出来なかったので「市口いちは」名義で執筆してはアップしている。


「どれどれ、読まれてるけど炎上に近いわね

 。『文体が古臭い』「純文学のWeb小説サイトに行け」『井口和葉の影響受けていると言うよりパクリだろ、これ』」


「パクリも何も私が本人なのにぃ」


 嘆く彼女に妹の遥香が、焼き芋を持ってきた。


「まあまあ、頭を使うと甘い物が欲しいでしょ。私特製のシルクスイートの焼き芋でも食べて休憩しましょうよ」


 焼き芋を和葉に手渡すとパァッと顔が明るくなった。


「まあ、また新しい芋! 本当に令和のサツマイモはどれもお菓子みたいですわ」


 美味しそうに焼き芋を食べている彼女。一度は死にかけたが、説明のつかない方法で令和にきて助かってからは自立支援の一環として私達とルームシェアして再び小説を書いている。しかし、百年も経つと文体はもちろん流行りも変わる。そこだけはなかなか治せず苦労しているようだ。


「じゃあ、和葉さん。今日は昭和の映画を見ましょう。『あゝ野麦峠』や『女工哀史』なんかどうです?」


「円香姉さん、和葉さんのトラウマをエグッてない?」


「かといって、今どきのだと、学園やらSFなんてまだまだ分からないだろうし」


「姉さん、そんな時は黒澤明よ!「七人の侍」で豪快に戦うのを観てスカッとするの!」


「あれ、スカッとするかな? ならば「ローマの休日」でラブロマンスは? ちょっと切ないのがいいのよね」


「和葉さんにはまだ国内もわかってないのに外国のあれこれ理解できるかなあ」


「あの、暗いのは嫌なので子ども向けのありませんか。あれなら暗くないですし、優しいかなと」


「子ども向け……未来からきた青いタヌキロボットがドタバタする話か、過激な五歳児が幼稚園や母親をおちょくる話か、メガネの小学生が殺人事件解決か、頭のアンパンを分け与えるヒーローか何がいいのかしら」


 和葉は顔がひきつっていった。


「な、なんだか理解出来ないものばかりですわね。百年も経つとこんなにも変わるなんて」


「じゃあ、今日は日本の歴史マンガか歴史番組を観ていきますか」


「そうします。空白の期間を埋めて勉強していかないとまたアンチコメントが飛び交うし」


 この不思議なワナビはワナビではない。本物の女流作家だ。ただし、百年前のだが。


 だいぶ馴染んできたし、私は疑っていたがすっかり彼女は本物だと思っている。


 それまでは紆余曲折あったなと、この部屋を借りた時のことを思い返していた。






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