第8話 説得
「今、そなたが口にした鹿肉も私が仕留めたものだ。里に下りてライ麦畑を荒らしたからな。どうだ!ちょうどこのライ麦パンと相性も良かろう!」
「ひょっとして調理もなされたのですか?」
「ハハハ!そこまでは人の仕事は盗らぬわ! 私は血抜きを行ったまでだ。これだけは素早くやらねばならぬからな! あとは塩コショウ、ローズマリーにニンニクと言った素朴な田舎料理だが……田舎者の私にはこれが一番性に合っている」
「しかし姫様!『井の中の蛙大海を知らず』という言葉もございますぞ。」
「では私は逆に問いたい! “井の中の蛙”になぜこうも
「もちろん姫様の忠誠は何人も疑ってはおられませぬ。でももう遅いのです。私が姫様を見てしまいましたから。 今宵、この赤ワインが進むのは鹿肉だけではなく姫様とのマリアージュあってこそです」
「なぜ、そう言い切る?!」
「私の目は我が主のイース公の目でありますから」
「魔術か?」
「その様な物よりもっと深淵でございます」
「では、『私を食したい』と言うのもイース公の私欲か?」
「御意のままに」
「それは困ったな!あいにくと私はイース公には食指は動かぬ! ただお主に対してはウズウズする!」
そうハンスに言い放つとエリザベートはアメリアを顧みた。
「この御仁は今日、私と同衾するそうだ! ただ私は可愛い妹であるお前の意にも沿いたい。今宵は三人で戯れようぞ! 『“漢気”に私も惚れたぞ!』との言葉は決して嘘では無いのだからな!」
「護らねばならない姫様と“戯れよ”とおっしゃるか?」
「
ハンスにこう申し渡したエリザベートは、グラスをグイッ!と空け、頬を赤らめるアメリアの肩を抱いて陽気に笑った。
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