第2話 呆れた女

 枝の中に弓の末弭うらはずを認め、様子を窺がってみるとその持ち主は矢の羽を口からはみ出させていた。

 どうやら射貫こうとして逆に射貫かれたらしい。口から後頭部を貫通し、矢じりは木の幹に打ち込まれている。


「なるほど、この矢の射手なら八人を相手にするのも可能か」


 エリザベートは女豹の用心深さで足音を消して身を伏し、携えていた鍬のつかを捻じり引くと見事な刃紋が垣間見える。


「なるだけなら我が地を人の血で穢したくはないのだが……」


 気配を消しながら近付くと、入れ替わり立ち替わり斬りかかって来る黒ずくめの八人とたった一人で渡り合うは、背中に侯爵家の紋章を負っている。


 次の瞬間、エリザベートは刃紋を煌めかせ、瞬く間に三人を打ち取った。


 生き残りの五人は陣形を変え、エリザベートと従士を輪の様に取り囲んで、ジワリと間合いを詰めてゆく。


 エリザベートは従士と背中合わせになって囁く。


「ウォーケン侯爵家の者とお見受けした。義に寄ってお助け申す」


 従士は微かに頷き、エリザベートの肩に自分の背中をコツン!と当てた。


 それを合図に二人は一気に斬りかかり、黒ずくめ共を皆、打ち倒した。


「とどめは刺すな!我が領地での事! 私が検分する!」

 従士を制し、息を残しておいた賊の胸倉を掴むと

「お前がそうなのか?! 呆れた女だ……」とニヤリと笑い、賊は自らその口を永遠に閉じた。




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