第1章④不祥事はおさめても理不尽には腹が立つもので
「そ……それで?」
「どうなったんだ?」
「事件など起きませんよ。ぼくは時間と次元の魔王ですよ?」
黒烏魔人が魔方陣を出現させたと同時に、阿夜はすかさず解析をすませていた。
だからゲートの外の、三万の世界の、怪魔の出現地点の時間を止めた。
そして一秒を三万分割にした。
三万分の一秒の中で、各異次元世界に飛び、怪魔を捕まえては時間檻に放り込んでいった。
また、捕獲作業に入る前に、会場にいた自分以外の全員を捕らえ、まとめて仕置きと尋問をしている。
「一秒を三万だろうが百万だろうが分割できますし、三万分の一秒をさらに三万分割することもできますからね、何体いようが一秒以内に捕獲できます」
できないのは過去の改変なので、それさえやらなければ、怪魔を捕らえて次の怪魔を捕らえる前に、時間を遡ることはできるのだ。
「なるほどね、三万分の一秒めに一体捕らえはじめて、仮に一時間かかるとして」
「平均、二秒でした」
「……二秒かけて捕らえたら、今度は三万分の二秒めに戻ってまた一体捕らえて、次は三万分の三秒めに戻るのね」
「一秒を三万分割だの、捕らえるのに平均二秒ってのは、行き先で怪魔が悪さする前に、急いだのか」
「はい。見られることすら禁忌の、異次元の怪魔です。さらに、やつらにグルメ趣味にでも走られたりしたら、目もあてられない」
「たしかに、しゃれにならないわね」
しかし、この能力は比類がないがゆえに、誰かに手伝ってもらえない。ひとりでコツコツ、コツコツ、三万の世界を渡りながら、三万体を捕獲……。
その結果が、朝に見た、過労死寸前の魔王さまである。
そして、この次元界の日本が、最後の三万体めの捕獲場所だった。
「ぼくの頼みごとというのは、捕まえた怪魔たちをぼくの世界に送還する手伝いなんです」
「へえ?」
征十郎の目が輝く。楽しいことがはじまる予感だ。
「時間檻に全部閉じ込めて停止させていますが、送還する時は解除して、一気に三万体を片付けたい。送還まで、一体ずつやってたら、ぼくはもうストレスでもたない」
阿夜はうんざりと言った。
時間を停止したり分割したり遡ったりして、彼の世界では一秒未満しか過ぎていなくても、阿夜自身の時間は過ぎていくのだ。
さすがに不眠不休ではいられなかったので、気が逸りながらの休息もとらずにいられなかった分、さらに、経過していないはずの時間が阿夜の肉体と精神に加算された。
12歳だった阿夜は、両親の知らぬ間に背が伸び、声変わりもして、もうすぐ14歳になろうとしていた。
この次元界にも、妖魔や怪魔の相談窓口がある。それなりの力があるものが、探そうと意識を向ければ、すぐ連絡がとれるシステムだ。
そこで、阿夜はみゆきと征十郎を紹介されたのだ。
三万体の怪魔を追いやる手伝いなら、このふたりがぴったりだと。
三万体を、ふたりで?
その評価の高さには驚いたが、休業中だという。しかしコンシェルジュが自信ありげに連絡した彼らの親たちが、実際に会って依頼をしてくれと言うのにも驚いた。
条件が両翼中学校への転校だというのに至っては、何回、なぜだと聞いたかわからない。
しかし。
「いいわよ、手伝うわ」
みゆきは即答した。
征十郎が、期待に満ちた目で、みゆきを見てくる。
「だって、仕事ができるからって大人に仕事を押しつけられた、こどもの悲劇よ? そんなの、あたしの同志じゃないのよ」
そして、みゆきも語り始めた。
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