マイナ・ランド

緑がふぇ茂りゅ

出荷

 我が家に史上の大惨事、出荷される佐渡さわたりむぎ。

 普通を保つ世の中では、普通でない人を見かけると、島へ連れて行く決まり。

 それほど友達もいないから、私は別に良いけれど、幼い弟が気がかり。

 奴隷のように手枷をつけ、家から島まで護衛つき、ただし小さな警察官。

「やぁお嬢よぉお嬢。厨二病も出る前に、少数派であるとバレたのは、残念なことでした」

 高い声、警察官がむぎをイジる。

「いいよ別に。あんな所、こっちから願い下げだ」

「お嬢、いい所住んでるね。夏で木茂り、自然に満ちて……」

 夏だから、連れて行かれるには眩しい景色が広がっていた。街灯が並び、きらめく港町。

「若田さん、もしかして、あなたも"マイナー"なんですか?」

「なんで俺の名前知ってんだよ」

「なんとなく」

 彼女は、他人の名前を当てる性質を持っていた。

 むぎ住む町の港にて、見慣れない舟が待っていた。地元の舟にしては、あまりにもスタイリッシュすぎた。

「若田チョウ! お待ちしてマッシャよ!?」

「若田殿! 塩水で錆びるかと思いましたぞ!」

 若田と同じ、鉄製のロボットが乗っていた。二体の手にはトライデントが持たれてて、しかし攻撃性が見受けられなかった。あまりいいトライデントじゃないのだろう。

「申し訳ナッシャぞ。さぁ、むぎを連れてきた」

「綺麗デスナ! その前髪!」

「黒髪とは日本らしい! 我が嫁に迎え入れようぞ!」

「ロボットとはお付き合いできません」

 うなだれず、しかし真顔のまま船を漕ぎ始めたロボットたち。

「……えっ、これで行くの? マイナ・ランド」

「我々マイナーな存在には、マイナーな乗り物しか許されていないのであるぞ」

 ギッシギッシギッシギッシ、ぽちゃんぽちゃんぽちゃんぽちゃん、うるさい音を立てながら、寒い水面を何時間も漕ぎ進んだ。

 荒れそうな波が心配だったけど、江戸っ子口調? のロボット江露兵衛えろべえが最新技術で起こさないようにしてくれてた。あとで災害でも起こりませんように。

「……もう話すことないんだけど」

「空き巣の手法なら話せますガナ!?」

「なんで山下くんは犯罪のことしか話さないの?」

 連れられる私がマイナーなら、連れるこの子達もマイナー。

 死ぬほど長い舟旅から、あと五百メートル? くらいのところまで漕いだ時、若田が急にスーツケースを漁り始めた。

「あらあらあんらないぞこれ。俺と江露と山下のは、あってもむぎのが無いぞこりゃ」

「無いってことがと思う。君たちが連れてきたくせに、入れないのは酷すぎない」

 実は、むぎは若田の右足が、彼女のライセンスを踏んでいて、それを今知ったのだが、面倒だから言わなかった。

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マイナ・ランド 緑がふぇ茂りゅ @gakuseinohutidori

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