第2話

 深夜の一時を回った辺りで、眠気に襲われて布団に潜った。私が退席した後も他のメンバーはオンラインゲームを続けていたらしく、朝起きてから確認した連絡ツールには、ボイスチャットを付けたまま寝落ちしてしまったであろう残骸が三つほど残っていた。

 ひとまず朝の支度を済ませた私は、昨日の投稿を確認する。閲覧数や反応はいつも通り、味気ないものであった。そんな簡単に正体が分かれば苦労していない、乾いた笑いが出そうになるが、ふと、ダイレクトメッセージがひとつ届いている事に気付いた。

 普段、このSNSのダイレクトメッセージは使う事がないからこそ、異質であった。最初は悪質なスパムかと思ったが、どうやら、送り主のアカウントはしっかりと人間の手によって動かされているようである。このアカウントの人物は、仮にRさんと呼ぶ。以降、RさんとH(私)のダイレクトメッセージ上でのやり取りを抜粋したものを記載。


「はじめまして、Rといいます。先程の投稿がタイムラインに流れてきたので、思わず連絡させていただきました」

「連絡が遅れて申し訳ございません、Hといいます。例の物体について、何かご存知なのであれば、差し支えなければ教えて頂きたいです」

「はい……恐らく『じゅくら』ではないかな、と……」

「『じゅくら』ですか」

「この単語をどこかで聞いた事ありますか?」

「いえ、今初めて知りました」

「ですよね……」

 Rさん曰く、Tがラブホテルで発見した謎の物体は『じゅくら』と言うらしい。 

「じゅくらというのは、どのような物なのでしょうか?」

「じゅくらは、私が通っていた大阪のとある小学校で、女子生徒を中心に流行していた物なんです。500ミリリットルペットボトルくらいのサイズで画像と同じようなものを自作して、シールを貼ったりリボンをつけたりして、ランドセルに付ける……みたいな感じでした」

「流行だったんですね」

「そうですね。でも、じゅくらが流行っていたのはどうやら私の小学校だけだったみたいなんです」

「というと?」

「私が中学生の頃、別の小学校に通っていた友人に「じゅくらって流行ってたよね」みたいな会話をした事があったんです。でもその子はじゅくらの事を知らなくて、その後高校、大学と進学した先でも、じゅくらを知っている人は居ませんでした」

「Rさんの通っていた小学校だけで流行っていた……という事なんですね」

「そうなんです。だから、昨日Hさんの投稿を見つけて直ぐに連絡したって感じです」

 一つの小学校の中でのみ流行していた、というのも、随分とおかしな話である。Rさんの会話から考えるに、じゅくらは学校全体に浸透している程の流行であったのだろう。そうであれば、近隣の小学校などにも流行が伝播していてもおかしくはない。

「ちなみに、Rさんはじゅくらが流行したきっかけとかは分からない、ですよね?」

「ですね。私も考えてみた事はあるんですけど、いつ何処で、というのは分かりません」

「そうですか。ありがとうございます」

「Hさんは、じゅくらについて調べているんですか?」

「そうですね……友人が不気味なものを見つけたと言って、あの画像を送ってきたんです。まだ好奇心で探っている段階なんですけどね」

 正直、このような不気味な物体が女児の間で流行していたというのは信じ難い。じゅくら自体に何かしらの意味があったのでは、と、私は睨んでいる。

「そういえば……じゅくらに関する事件がひとつ、ありました。情報になるかどうかは分かりませんが……」

「事件、ですか」

「はい。確か、私が小学四年生の頃だったと思います。私の小学校に通っていた三年生の男子生徒が、下校中に暴行にあった事があったんです」

「男子生徒の暴行事件。痛ましいですね……」

「はい。幸い怪我はそこまで大きくなくて、犯人も直ぐに逮捕されたみたいです。私からしたら被害に遭った子と学年も違いますし、顔も名前も知らない生徒でしたけど、子供心ながらにかなり怖かった一件ですね」

「確かに、小学生からしたら恐怖ですね……」

「それで、じゅくらとの関連なんですけど……どうやら犯人が男子生徒に殴りかかった際に『男がじゅくらを身につけるな』と叫んでいたらしいんです。それが動機だったと……」

「男子生徒は、じゅくらを身につけていたんですか?」

「そうみたいです。女子生徒の間での流行といっても、男子生徒が完全に無関心なんて事はなかったですね。偶にじゅくらを持っている男子生徒もいました」

 じゅくらは、男が持ってはいけないものなのだろうか。犯人は何故暴行に至ったのか。少なくとも、この事件の概要はかなり大きなヒントになるのではないだろうかと考えている。

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