18話 パンを口に駆け足で
翌朝、案の定、丘菟は先日の夜遅くまでのログインが祟り、いつもより寝坊してしまう。「丘菟!起きなさいってば!」とリルの声が端末から何度も響き、ようやく目を覚ます。「うぅ…あと5分…」と呻くが、「もう時間ないよ!」とリルに急かされ、慌ててベッドから飛び起きる。時計を見ると通常より15分遅れ。「うわっ、やばい!」と叫び、慌ただしく制服に着替え、キッチンで牛乳を一気に飲み干す。トーストにする時間すら惜しんで、食パンを咥えたままリュックを背負い、「行ってきます!」と勢いよく家を飛び出す。
道中、端末から聞こえるリルの声が止まらない。「ほんと、昨日遅くまで遊んでたからこうなるんだよ!ちゃんと時間守ってログアウトしないと!」とお小言の嵐。丘菟は食パンを咥えたまま、「ごめん、ごめんって!リルが起こしてくれたから何とか間に合うよ!」とひたすら謝る。荷物はリュックに背負ってるおかげで両手が空いており、謝る仕草も楽だ。「いやいや、間に合ってないよ!走って!」とリルに突っ込まれ、「うん、走ってるって!」と息を切らしながら答える。朝の住宅街を駆け抜け、学校までの道を急ぐ。
十字路に差し掛かった瞬間、角から出てきた相手と「ドン!」とぶつかり、丘菟は「うわっ!」と尻もちをついて倒れる。食パンが地面に落ち、「あぁ…朝ごはんが」と呟く。一方、ぶつかった相手は微動だにせず立ったまま。見上げると、同じ制服を着た男子生徒で、丘菟より背が高く、体格もがっしりしている。「すまない、君大丈夫か?」と心配そうに顔を覗き込み、右手を差し出してくる。丘菟はその手を頼りに「うん、大丈夫」と立ち上がり、軽くズボンの埃を払う。「倒れたけど怪我はないか?」と聞かれ、「うーん、全身見ても特に何ともないよ」と答える。男子生徒が「華奢な感じだったから女子かと思ったけど、男子だったのか!ラブコメ的な出会いを期待したのに残念だな」と冗談めかして笑う。丘菟も「こっちも不注意がすぎました。ありがとうございます」と微笑み返す。
すると、男子生徒が急に胸元を抑え、「お、おう、お互い様だよ」と少し顔を赤らめる。そのまま「じゃあな!」と踵を返し、学校へ向かって走り去っていく。「気をつけないとだめだよ!」とリルが端末から注意し、丘菟が「うん、そうだね。気をつけるよ」と素直に頷く。その後方で、眼鏡姿のおさげ髪の女子生徒とオカッパ頭の男子生徒が「いやぁ、絵になりますぞ!あのぶつかりからの助け合い、これは次のコミケのネタが降りてきたかもしれませんぞ!」と興奮気味に話しているが、丘菟には聞こえず、ただ学校への道を急ぐ。
校門をくぐり教室に着くと、黒板に「本日身体測定」と書かれている。「昨日は3年生だったし、2年は今日なんだなぁ」と昨日のショートルームでの話を思い出し、納得する。一学年6クラスある学校では、隣のAクラスと合同で測定が行われるため、丘菟はアソンと一緒に回ることに。アソンにメッセージを送ると、「掲示板に書き込んだり夜更かししたから眠いけど了解。いま机に突っ伏してる」と返信が来る。丘菟は「やっぱりか」と苦笑いしつつ、教室の喧騒の中で身体測定の準備を始める。
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