21話 閑話1

 翌朝、目覚ましが鳴り響くなか、丘菟はベッドから這い出す。


 昨夜、美奈の家でカレーを食べ、リンク・ワールドで夜の草原を駆けた記憶が頭に残る。


 カーテンを開けると、朝陽が部屋を明るく照らし賃貸マンションの静寂を少し和らげる。


 制服に袖を通し鏡でボブカットを整えると、リルのホログラムが腕の端末から浮かぶ。


「おはよう、丘菟!昨夜の夜モード、楽しかったね!」と桜色の髪を揺らし、青い瞳を輝かせる。


「うん、敵が強くなるって新鮮だったよ」と笑いながら返す。 


 キッチンでトーストをかじりつつ、リルが「今日の予定は?」と聞く。


「学校行って、部活かな。夜またログインするよ」と鞄に教科書を詰める。


 するとスマホが振動し、アソンからのメッセージが届く。


「新アバター、今日お披露目するから期待しろよ!」と絵文字付きだ。


 丘菟は「藤原さんと佐藤さん似か…」と呟きつつ、少し苦笑する。


 学校へ向かう道すがら、藤原美咲と佐藤遥香に校門で会う。


 美咲が「丘菟、昨日アソンと何か企んでた?」とショートカットを揺らして聞くと、遥香が「ゲームの話でしょ。アバター作り直してるってうるさかった」と眼鏡を直して言う。


「まあ、そんなとこ」と誤魔化しつつ教室へ。


 教室に着くと自分の席にアソンが座っていたので席を譲ってもらうと、アソンが「今夜は絶対ログインな!」と笑うと、鼻歌交じりに自分の教室(2-A)へ向かって行った。


 丘菟は「どんだけ自信あるんだよ」と内心思い、微笑を浮かべる。


 すると、クラスの生徒達が「やっぱり性別間違って生まれてきたんじゃないか」と小声で話し合うのが耳に入る。


 丘菟は現実の自分――華奢で頼りない姿――と、ゲームの自分――剣を手に戦う姿――を少し考える。


 リルが「丘菟ならどっちも素敵だよ」と囁き、小さく頷く。


 授業が始まり、窓の外を見ながら次の冒険への期待が胸に膨らむ。


 夜の草原で何が待ってるんだろう、と。




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