第3話 迷い

 「これからどのような治療方針で行くか、ご家族でご相談ください。癌治療をすれば余命は延びる可能性はあります。但し身体には相当ダメージが入ります。治療をせずに痛み止めだけの処方で余命を生き切ると言う選択肢もあります。当院にはホスピスもありますし、緩和ケアは充実しています」

主治医の先生は、穏やかに今後についての説明をして下さいました。


 帰宅してから皆で話し合いました。

「どうすればいいと思う?お父さんは無理に余命延ばすよりもやりたかったことをやったらいいんじゃないかと思うけど…」と父。

「俺もそう思う。俺は前々から計画していたヨーロッパ旅行にお袋を連れていけたらいいなと思ってる」と兄。

「私も治療はしない方がいいと思う。抗癌剤の治療始めたら身体ガタガタになるって言うし、それで治るならともかく、もう治らないのが確実ならば無理に身体に負担になる治療はせずに、身体が動く限り楽しく過ごすのがいいのじゃないかなぁ…。お母さんはどうしたい?やっぱり治療したい?」と私。

「そうねぇ…みんなが言うように、治療せずに居ようかなぁ…その方がいいかしらねぇ…うん、そうしよう」

母は家族の意見に同意して治療はしない方針で行く事に決めました。しかし私には母がまだ迷っているように思えてなりませんでした。

 そして迷いは私にもありました。実は私はこの時四人目の子供を授かっており、出産は六月の予定でした。その事を報告しようかと思っていた矢先に母の癌が分かり言い出せなくなっていたのです。

 高齢出産に当たる私の年齢で、安定期の前の状態である事を死を目前にして心穏やかでない母に対して明らかにして良いものかどうか…


 しかしこの迷いも程なく解決する事になります。



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