しょうが

@k-yumi

第1話 電話

 あと少しで師走になろうかという日の夕方。突然電話のベルが鳴りました。誰だろう?と出てみると、それは母からの電話でした。

「あれ?お母さん、どうしたの?」

「えっとね、明日なんだけど午前中時間取れるかしら?」

「うん、大丈夫だけど、何かあった?」

「明日ね、病院で検査があるんだけど、一人で行くのがちょっと怖くて…付き添ってもらっていいかしら?」

「うん、いいよ。何時に行けばいい?」


 翌日、母と待ち合わせて病院へ向かいました。私の家は実家に近く、スープが冷めないどころか熱くて火傷してしまいそうな距離なので、こんな時にはとても便利です。

「お母さん、おはよう!支度できた?」

「ああ、ちょっと待っててね。もう少し…はい、これでオッケー」

母は病院に行くとは思えない、綺麗にお化粧した姿で現れました。とは言っても母はもともと薄化粧の人なので、嫌味のない程度のおしゃれです。母はちょっと近所に出かける時も必ずお化粧し、ゴミ置き場にゴミを出しに行く時も着替えてから出しに行く人で、その姿勢は私もお手本にしています。

 娘の私が言うのも何ですが、母はとても美しい人です。高校時代はクラスのアイドルだったと、私も同席した母の同窓会で元クラスメイトから伺いました。但し女子校でしたけどね!


 晩秋の街は陽射しに恵まれ意外にも暖かく、病院までの道を散歩がてらに向かう事にしました。

道沿いには桜の樹が植えられていて、今は裸の枝が寒々しいですが、毎年春になると見事な花を咲かせます。

「また春になったらお花見できるね」

「そうね、楽しみね!」

この道中が、母との最期の散歩になるとも知らずに…



 

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