第二十三話 黒衣の男の正体

■ 揺れる疑念

 政府の隠蔽していた研究データを解析したことで、隼人たちは「鉱石が進化する可能性」という衝撃的な事実を知った。

 妖精は単なる伝説的な存在ではなく、長い年月をかけて進化した鉱石そのものだった。


 もしこの進化がさらに進めば、地球上の鉱石すべてが意識を持つ可能性がある。

 政府が研究を封じたのは、この事実が社会に与える影響を恐れたからだった。


 隼人は、じっとノワールとルミエを見つめる。


 「……お前たちは、何か覚えているのか?」


 ルミエが不安そうに小さく首を振る。

 「ワタシ……ワカラナイ……」


 ノワールも、静かに答えた。

 「ワタシタチ……ナゼ、ココニイル……?」


 美咲が端末を閉じ、鋭い視線を送る。

 「問題は、政府がこの情報を知った上で、私たちをどうするつもりかってことよ。」


 本田が腕を組みながら険しい表情を浮かべる。

 「政府の動きが不穏なのは間違いない。俺たちを捕まえるだけで済むとは思えん。」


 すると、壁際で静かに腕を組んでいた黒衣の男が低く呟いた。

 「……政府は、すでに“次の段階”に入っている。」


 隼人たちは一斉に彼の方を向いた。

 「……どういうことだ?」


■ 黒衣の男の正体

 黒衣の男は、冷静な表情で彼らを見つめていた。


 「政府は、妖精の進化が抑えられないと判断した場合、最悪の手段に出る可能性がある。」


 本田が眉をひそめる。

 「最悪の手段?」


 男は静かに頷いた。

 「――妖精たちを“処分”するつもりだ。」


 ルミエが小さく震え、ノワールが鋭く睨む。

 「ナゼ……?」


 黒衣の男はゆっくりとフードを下ろした。


 鋭い眼光を持つ男。

 黒髪に交じる白髪、険しい表情。


 美咲が慎重に問いかける。

 「……あなたは、政府の人間ではないのよね?」


 男は静かに微笑んだ。

 「政府の人間ではないが、政府以上にこの事態を理解している者だ。」


 「どういうこと?」

 隼人が問いかけると、男はゆっくりと歩を進めながら話し始めた。


 「俺の名はカロン。俺はかつて、政府の研究機関で働いていた者だ。」


 隼人の目が大きく見開かれる。

 「……政府の研究者だった、だと?」


 カロンは頷き、続けた。

 「俺は、お前たちが知った“鉱石の進化”の研究に携わっていた。」


 「……!」


 「15年前、俺たちは、ダイヤモンド内部の“存在”についての研究を行っていた。そしてある時、仮説が証明されそうになった。」


 本田が険しい表情を浮かべる。

 「仮説……?」


 「――鉱石が進化するという証拠が見つかったんだ。」


■ 隠された研究

 カロンは語る。


 「俺たちは、ダイヤモンドの内部に見える存在が、単なる光学現象ではなく、“鉱石の意識体”である可能性を発見した。」


 「鉱石の意識体……?」

 隼人が反応する。


 「そうだ。そして、進化の過程において、ある一定の条件下で“目覚める”ことが分かった。」


 美咲が鋭い目つきで言った。

 「その“目覚める条件”とは?」


 カロンは、ルミエとノワールを見つめながら答えた。

 「妖精たちは、長い時間をかけて鉱石の内部で成長する。そして、何らかの外的要因……例えば、強いエネルギーの干渉、もしくは“対となる存在の目覚め”によって覚醒する。」


 「対となる存在……?」


 「ブラックダイヤモンドの妖精が目覚めたことで、ダイヤモンドの妖精も目覚めた……それが今回のケースだ。」


 ノワールとルミエが、お互いを見つめる。

 「ワタシタチ……ソンナ、カンケイ?」


 カロンはゆっくりと頷いた。

 「お前たちは、おそらく、進化の鍵となる存在だ。」


■ 政府の本当の計画

 本田が警戒しながら言った。

 「だが、それならなぜ政府は“処分”なんて話になる?」


 カロンの表情が曇る。

 「政府は、お前たちが進化を遂げることで、地球そのものが変わることを恐れている。」


 美咲が目を細めた。

 「つまり、鉱石全体が意識を持ち始めたら、人間社会が成り立たなくなると?」


 「そうだ。」


 「だから、“進化の可能性を根本から消し去る”つもりなのね。」


 カロンは静かに頷いた。

 「今、政府は、最終手段として、お前たちを完全に封じる手段を探っているはずだ。」


 ノワールが、小さく震える。

 「……フウイン?」


 ルミエも、不安げに呟く。

 「ワタシ……イキテル……?」


 隼人は強く拳を握りしめた。

 「政府が何を企んでいようが……お前たちを渡すわけにはいかない。」


 本田が同意するように頷く。

 「奴らの狙いが分かったなら、こっちも動くしかないな。」


 カロンはゆっくりと彼らを見渡し、静かに言った。

 「お前たちの旅は、まだ終わらない。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る