第二十二話 政府が隠蔽したもの

■ 研究データの闇

 薄暗い部屋の中、隼人は美咲の端末の画面を見つめていた。


 「政府が封印した研究のデータ……」


 美咲がキーボードを叩きながら、バックアップ施設のデータにアクセスを試みる。

 「セキュリティは厳重ね。でも、ここに残されているはず……政府が何を恐れているのか。」


 ファイルリストが表示される。

 そこには、「ダイヤモンド鉱石解析」「光学異常現象報告」など、かつての研究記録が保存されていた。


 「政府はこの研究を封鎖した。でも、なぜ?」


 本田が腕を組みながら低く呟いた。

 「妖精の存在が知られることを恐れたのか、それとも……」


 美咲がファイルを開く。画面に映し出されたのは、一枚の解析画像だった。

 ダイヤモンドの内部に、ぼんやりとした人影のようなものが浮かび上がっている。


 「これは……?」


 隼人が画面を凝視する。

 「ダイヤモンドの内部にいるものを可視化した画像……」


 美咲が解析レポートを読む。

 「“鉱石の内部に存在するエネルギーの波長が、人間の生体反応に近い”……?」


 「つまり、妖精はただの幻影じゃなく、本当に何かがそこにいたってことか?」


 「そういうことになるわね。でも、それだけなら研究を封鎖する理由にはならない……」


 さらにスクロールすると、新たなデータが表示された。

 「“内部エネルギーの変動を確認”」


 「何かの影響で、鉱石内のエネルギーが変化したってことか?」


 「ええ。これを記録したのは、研究の最終段階に近い時期ね。」


 「その後、研究が封鎖された……この変動が関係してるのか?」

 隼人が眉をひそめる。


■ 隠された記録

 画面の中には、研究が進められた際の詳細な実験データが残されていた。


 「この研究データ……政府が意図的に消そうとした理由があるはず。」


 美咲は慎重にファイルを開く。そこに記されていたのは、研究員たちの手記だった。


 「ダイヤモンドの内部に、未知の意識が存在している可能性がある。」

 「何らかの要因によって目覚めることがあるかもしれない。」


 本田が険しい表情を浮かべる。


 さらに読み進めると、衝撃的な記述が現れた。

 「このエネルギーが目覚めた時、鉱石そのものが変異する可能性がある。」


 「鉱石が変異……?」

 隼人が思わず呟く。


 「もしかして……妖精たちは、鉱石が“進化”した存在だとでもいうのか?」


 美咲が無言で頷く。

 「この記録では、妖精が鉱石のエネルギーから生まれた“何か”である可能性が示唆されている。」


 「そんなことが……だから、政府は研究を封印したのか……?」


 「ええ。もしこれが事実なら、鉱石は単なる鉱物じゃなくなる。」


 「意識を持つ鉱石……」

 ノワールが静かに呟いた。


■ 妖精の進化

 画面には、研究員たちの最後の記録が残されていた。


 「この鉱石が意識を持つという仮説が証明された場合、人類は新たな存在と向き合わなければならない。」

 「もし鉱石が進化するなら、それは地球の未来を変える可能性がある。」


 本田が息をのむ。

 「政府は、この研究が進み、他の鉱石も進化する可能性を恐れたのか……?」


 美咲が続ける。

 「ダイヤモンドだけじゃない。すべての鉱石が、何らかの形で意識を持つ可能性があると書かれているわ。」


 「それがもし本当なら……」

 隼人が呟く。


 「それが、政府が隠したかった真実……?」


 「妖精たちは、鉱石の進化した姿。もし彼らの進化が進めば、地球そのものが“覚醒”する可能性がある……」


 美咲が小さく頷く。

 「それが政府が研究を封じた理由よ。」


 ノワールが静かに呟く。

 「ワタシタチ……ダイヤモンドカラ……デテモ、ワスレテイタ……」


 ルミエも、小さく頷く。

 「ワタシ……ナゼ、イタノカ……ワカラナイ……」


 しかし、彼らの存在が「偶然」なのか「必然」なのかは、まだ分からない。


■ 次なる手掛かり

 「政府はまだ、私たちを捕まえようとしている。」


 本田が警戒しながら言った。

 「今、私たちがこの事実を知ったことも、奴らは察知しているだろうな。」


 美咲が端末を閉じる。

 「でも、もう分かったわ。政府は、妖精たちがこの世界にどう関わるのか、それを制御したいだけなのよ。」


 「制御できなければ、どうするつもりだ?」

 本田の問いに、美咲は静かに答えた。

 「封じるか、消すか……どちらかでしょうね。」


 ノワールとルミエが不安そうに顔を見合わせる。

 「ワタシタチ……イキテル?」


 隼人が静かに頷いた。

 「君たちは、確かに生きている。でも、それが何なのか……俺たちはまだ分からない。」


 政府はこの情報を隠し続けようとするだろう。

 しかし、隼人たちはもう知ってしまった。


 この世界において、妖精たちが持つ意味を。

 そして――彼らが、進化の岐路に立っていることを。

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