第八話 黒衣の訪問者

■ 地下施設の正体

地下施設の薄暗い通路に、不気味な静寂が広がる。

隼人たちは慎重に奥へと進みながら、周囲の様子を警戒していた。


「……この場所、何か違和感があるわね」


美咲が端末を操作しながら施設の構造を解析していた。


「……ここ、政府の公式な研究データには載っていないわ。でも、記録が完全に消去されたわけじゃない。断片的なデータが残っている」


「何か分かったか?」


隼人が問いかけると、美咲は画面を指差した。


「どうやら、この施設では“ダイヤモンド”に関する研究が行われていたみたい……」


その時――


「待て」


静寂を破る低い声が響いた。

隼人が振り向くと、闇の中から黒衣の男が姿を現した。


「……またお前か」


男は静かに歩み寄ると、彼らの前で足を止まった。


「お前たちは、どこまで知った?」


■ 研究されていたもの

「お前はここに何の用だ?」


隼人が問いかけると、黒衣の男は施設の奥を指し示した。


「ここには、政府がかつて研究していた“あるもの”の記録が残っている」


桐生教授が厳しい表情で口を開く。


「ダイヤモンドの研究をしていたのか?」


黒衣の男は静かに頷いた。


「この施設では、かつて発見された異常なダイヤモンドを調査していた。そのダイヤモンドの内部には、人のような影が見えていた。」


「……!」


美咲が驚き、端末をさらに操作する。


「確かに、ここに残されたデータにもあるわ。“内部構造に通常の結晶構造とは異なる影が確認された”……?」


「ダイヤモンドの中に、人のような影……」


政府の極秘研究、封印記録 No.017を思い出しながら隼人が怪訝そうにデータを覗き込む。


「それは……本物の“人”だったのか?」


黒衣の男はわずかに首を振った。


「研究者たちは、その正体を突き止めることはできなかった。ただ、それが通常の鉱石にはあり得ない現象であることだけは確かだった」


「しかし……なぜこの研究は、公式な記録には残されていないの?」


美咲が端末のログを追いながら言う。


「この施設のデータは、ある時期を境にほぼ完全に消去されてるわ。まるで、研究そのものが“なかったこと”にされたみたい」


「政府が極秘裏に研究していたと矢代が言っていた。」

隼人が答えながらノワールを見つめる。


ダイヤモンドの中に“人影”――それが何なのか、まだ分からない。


「まさか……ノワールのような存在が、ほかにも…」


■ 消えた研究者たち

桐生教授が端末の解析を続けていると、ある名前が表示された。


「研究主任:桐生 泰三」


「……桐生……?」


美咲が驚いて教授を見た。


「先生……これは?」


桐生教授は、画面を見つめたまま動かない。

やがて、低い声で呟いた。


「……父だ」


「え?」


「私の父は、かつて政府の研究機関で働いていた。だが、ある日突然、消息を絶ったんだ」


隼人と美咲は息をのんだ。


「それが、ここでの研究と関係していると?」


「可能性はある」


教授の目には、深い思索の色が宿っていた。


「父は、何かを知ってしまったのかもしれない……それが原因で、政府に消されたのか」


黒衣の男は静かに言った。


「この研究に関わった者は、例外なく“消された”」


「……っ」


美咲が思わず息をのむ。


隼人は矢代が言っていたことを思い出す。

「当時の研究員はいない。 ーーまさか消されていたとは。」


黒衣の男が続ける。


「だから、ここに残された情報はほんのわずかしかない」


「でも、何のために?」


「それが分かれば、お前たちは新たな真実に辿り着ける」


■ 施設の奥へ

「ここに、まだ何かあるのか?」


隼人が尋ねると、黒衣の男はポケットから小さなデバイスを取り出し、隼人に渡した。


「これを使え」


「これは……?」


「この施設の奥にある、最深部の研究データを解放するためのキーだ」


美咲が端末をチェックし、驚いた表情を浮かべる。


「このデバイスがあれば、政府が封印したデータを開けるかもしれない……!」


「なら、やるしかないな」


隼人はデバイスを手に取り、奥へと進んだ。

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