第16話 帰宅

「俺の名は、ラーグラという。国の名前は忘れてしまったが、トラノツという町で職人をしていたのは覚えている。」


 男がいうには、人間に由来する妖精は、人間に憑依する事はしていないという。

 今回騒がれたのは、おそらく獣由来の妖精ではないかという事だった。

 そして、人間由来の妖精達は、今回の呼びかけに当初から興味を示しており、多くの妖精は人間と暮らす事を望んでいるらしい。


「人間由来の妖精は、何人くらいいるんですか?」


「この近辺の事しか分からないが、だいたい30人位だと思う。妖精ってのは、組織的に動いている訳じゃないし、リーダーがいるという事もない。基本的には個体が好きなように動いているだけだからな。」


「普段は何をしているんですか?」


「特に目的がある訳じゃない。俺は風に乗って漂ったり、虫や獣にちょっかいをかけて反応を楽しんでいるってところだな。」


「イタズラ?」


「まあ、そんな感じだな。最初のころは人間に話しかけたり気を引こうとしたりしてたんだが、あまりにも反応がないもんだから諦めたよ。」


「やっぱり、人間と拘わりたいんですか?」


「そりゃあ、こうやって会話が成立するのは楽しいさ。虫や獣じゃ反応を楽しむしかないからな。」


「魔法とかは誰かが教えているんですか?」


「いや、そういうのはないぞ。呪文とか知らねえしな。獣由来のやつらもそうだが、魔法ってよりも魔力?ってやつを適当に暴走させてるだけだろう。」


「えっ、町を覆っている結界も、妖精から学んだって記録があったんですけど……」


「ああ、この膜みたいなやつか。こんなのは初めて見たぞ。そういやあ、そういうのが得意そうなのがいたかもしれねえな。」


「だったら、ラーグラさんも魔法を覚えてみます?」


「いや、俺は鍛冶の方が興味あるな。とりあえず、この体を動かせるようにしてから、色々試してみたいな。」


 この成果は、オシロから国王に報告され、国として全面的に協力するという確約とった。

 翌日から、妖精の融合はどんどん増えていった。

 融合した妖精は、最初に身体を動かす事を練習するのだが、はた目からみれば超合金のラジコン人形がぎこちなく動いているようにしか見えない。

 ある程度動けるようになった妖精に、次のステップとして魔力コントロールを覚えてもらうのだが、ここで一人が宙に浮いて飛び始めるとみんなが同じように飛びだした。


「どうやって飛んでいるんですか?」


「理屈は分からないんだけど、重力をコントロールしてる感じかな。」


 妖精像に融合したアリシアが答えた。

 重さをコントロールすることで、動きが格段にスムーズになってくる。

 そして妖精たちは思い思いの行動をとるようになる。


 魔法に興味を持った者は、城の魔法師と一緒に研究に入り、鍛冶に興味を持つ者や武術を練習する者など様々だが、ハルたちと行動を共にする事を選んだ個体もいた。

 アリシアを通じて、妖精の姿を選んだライラだ。

 ピンクの髪を希望してきたライラは体形や服のデザインまで指定してきた。

 まあ、服などいくらでも着替えられるから、みんな好きな服装をしているのだが。


 こうして、妖精騒動はおさまってきた。

 当然だが、妖精には妖精が認識できるし、宥めたり退治する事も可能なのだ。

 そうやって、懐柔できた獣由来の妖精は、動物型の像に融合してもらう。

 その指示も、妖精が行っているのだ。



 平穏を取り戻したハルたちはトランドの町に帰る事にした。

 その車には、二人の妖精と天使が同行している。


「本当に私たちと一緒に来ちゃっていいんですか?」


「だって、ラナの事も心配だし、ハル君と一緒の方が楽しそうだもの。」


「ねーっ。ボクはさ、このクルマっていうのとか、デンキっていうのにすっごく興味あるんだよね。」


「ライラって、もしかしてオタク……」


「何それ。でもさ、ハルの触手からもらった情報で、ある程度理屈は分かったからさ。自分でも色々作ってみたいでしょ。」


「そうですね。まさか私のデータを、魔力を使って読み取れるとは思いませんでしたよ。」


「でも、そのおかげで、ラナも喋れるようになったしさ、次はこっちの情報をハルに送れないか試してみようよ。」


 ハルは脳波を読み取ってデータとして保存する事が可能だが、その情報を逆に脳波の信号としてライラに送ったところ、ライラはそれを取り込むことができたのだ。

 もちろん、ハルの全てのデータではなく、10%程の知識だったが、それを取り込んだライラは地球人並みの知識をもつ事になった。

 そのやりかたは、アリシアとラナにも共有され、ラナの頭脳は驚異的な速度で成長している。

 

 そうしてハルたちは自宅に帰った。


「おかえり。」


「ただいま。こっちはどうでした?」


 冒険者のサキが出迎える。


「大きな変化はないけど、首飾りの製造は順調だし、ああ、そういえば新しい領主が着任したよ。」


「ああ、ランドーン子爵が来たんですね。」


「王都でお会いした方ですわね。」


「のうん、二人は領主と会ってたんだ。」


「ああ。国王への謁見で引き合わされたんだよ。次期トランド領主だってね。」


「アタシも、着任の2日後に紹介されたよ。あんまり興味はなかったんだけど、ほら、換金屋のランカスター男爵がいただろ、あの人が副領主になったんで、無理やり顔見世させられたんだ。」


「ジェドさんも副領主に取り立てられたんですね。これで実績を積めば子爵に昇格だと陛下がおっしゃっていましたものね。」


「爵位とか分かんねえけど、ああいう町の事を考えてくれる人が荒くなるのはいいと思うな。」


「ああ、そのジェドさんから、ハルたちが帰ってきてら、領主邸に顔を出してほしいって頼まれていたんだ。」


「私たちもそのつもりだったよ。じゃあこれから行こうか。」


「はい。」


 ハルたちは領主邸に赴き、挨拶を交わした。


「おお、ハル君とは王都以来だね。」


「無事、着任されたようで何よりです。」


「その3人が妖精なんだね。私は話しでしか聞いておらず、目にするのは初めてなんだよ。」


「この子がラナで、妖精姿の二人はアリシアとライラです。」


 3人の妖精像が挨拶を交わす。


「それで、ランカスター男爵とも相談したんだが、今後は益々ミスリルの需要が増えるだろう。だから、採掘を増やそうと思うのだがどうだろうか?」


「増産しても、値崩れを起こすだけですよ。確かに魔道具の普及は国にとって益となりますが、ただでさえ魔道具の普及で職を失う人が出ているでしょう。」


「職を?どういう事だね。」


「コンロが増えれば、薪作りの作業員が職を失う。水道が増えれば、井戸掘りが必要なくなり、水を汲んで運ぶ者も少なくて済む。」


「そ、そんな事が……」


「それだけではなく、水を無尽蔵に組み上げれば、地下の水も枯渇すら可能性があります。」


「なにぃ!地下の水というのは、いくらでも湧き出てくるのではないのか……」


「場所によって全然違います。絶えず補充される場所もあれば、長い年月をかけて少しずつ溜まっていったところもあります。」


 こうして新領主との意見交換を終えたハルたちは、屋敷に帰った。


「ふう、流石に疲れましたわ。」


「生身のリュカさんにはきつかっただろうね。数日はゆっくりと疲れをとって休めばいいよ。」


「そうですね。明日は、ラナとお散歩にでも出かけようかしら。」


「もし町の外に行くのなら、今日中に戦えるように魔道具設置しておくけど。」


「えっ?」


「王都で色々な本を読んだからね。魔物を攻撃するための魔道具も、色々と追加できるよ。」



【あとがき】

 氷の矢とか風刃とか、いくらでも装備可能です。

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