第6話 遺跡
探査結果から言えることは、門だとされている建造物は、実は大きなモニュメントであり、その上部が地上に出ているだけだった。
そして、地上部分に紫外線を発する物質は見当たらなか……、いや、いたるところが紫外線を放っていた。
その外側にこびりついた土を落としていくと、簡単に数十キロ単位のミスリルが現れる。
ハルは、その表面に腕輪と同じような文様が刻まれている事に気付いた。
「どうしたのハル、そんな顔して。」
「いや、これを持ち帰りたいのだけれど。」
「ム、ムリよそんなの!」
「それならば、カートを作るか。ちょっと待っててくれ。」
ハルは林に行き、カートを作る。
車輪や車軸部分は鉄製だ。
それを咥えて牽き、サキの元に戻る。
「今日はとりあえずこれで戻ろう。」
「えっ、来たばかりじゃん。」
「いや、これの特性を確認したいので、探索はまた次回にしよう。」
ハルはカートにミスリルを載せて引っ張っていく。
帰りにもスライムや小さなトカゲが出現したが、それらの雑魚はサキが倒していった。
「小さくていいから、家を買おう。」
「えっ?」
「金を5キロくらい売れば買えるだろう。」
「家の事はどうするの?私、家事なんてできないよ!」
「メイドでも雇えばいいだろう。」
「そ、そんな簡単に言われても……」
「金なんて、いくらでも掘ってこれるんだ。金で済むのならどんどん使えばいいさ。」
サキに反対する理由などない。
そもそもが、ハルの見つけた金で、ハルの都合で家を持つのだ。
二人は換金所で5キロの金を買い取ってもらい、600枚の金貨をリュックに入れて商業ギルドに入った。
「あの、家を買いたいんですけど。」
「家の大きさとご予算は如何ほどでしょう?」
「えっと、金貨500枚くらいで、できれば冒険者ギルドに近くて……」
金貨500枚なら6000万円程度だ。
首都圏でも郊外ならそこそこの戸建てが買えるだろう。
だが、カウンターの女性は緊張した表情になり、応接間のような場所に二人を誘導した。
少し待っていると、偉そうな中年の男性がやってきた。
「お待たせして申し訳ございません。振興課長のテイラと申します。」
「あっ、冒険者のサキです。」
「それで、金貨500枚のお屋敷ですね。」
「はい。」
ハルは屋敷という表現に違和感を感じたが、サキに肯定させた。
「ご利用の目的は?」
「住居用と、道具加工の工房に使います。」
「承知いたしました。それで、このクラスの取引になりますと、紹介状や信用状が必要になるのですが、お持ちでしょうか。」
「あっ、はい。これ、換金屋のジェドさんが家を買うなら必要だろうと書いてくれました。」
「おおっ、ジェド男爵が紹介状を発行するのは珍しい。」
「あっ、あの人貴族だったんですね。」
「町の中では5本の指に数えられるお方ですよ。家柄ではなく、お人柄や実務能力に長けておられます。」
「へえ、知りませんでした。」
「では、具体的な物件をご紹介いたします。5件ございまして、まずはこちら。他界された伯爵様が別邸として建てられたお屋敷で、中央からは少し外れますが、部屋数は24ございまして……」
「もっと狭い家でお願いします。」
「でしたら、こちらはニコラス商会の大旦那様が隠居された時に建てた家で、12室の間取りで魔道具……」
「広すぎ!……って、魔道具?」
「はい。大旦那様は、魔道具に大変興味をお持ちで、家の中に色々な魔道具を据え付けされたんですよ。」
「その、そこを購入したとして、魔道具のメンテナンスは可能なんですか?」
「いえ、残念ながらその職人も他界しており、弟子もおりませんので修理や追加もできません。ですから、現状でお使いいただく他ございません。」
「……もし、その家を購入した場合、家を維持・運営するのにメイドは何人くらい必要ですか?」
「一概に申し上げられませんが、3から5人程度は必要だと思います。」
「ギルドで、メイドの斡旋もお願いできますか?」
「それはもう。身元の確かな者をご紹介させていただきます。先住者のお亡くなりになったのが3か月前で、これまでに働いていたメイドもやっと片付けが終わったところ。次の働き先が決まっていない者もおりますので、彼女たちを確保しましょう。」
「それと、魔法を使えるメイドとかいませんかね。」
「魔法師ですか……、メイドで魔法師というのは考えづらいですが……よろしければ、奴隷商をあたられては如何でしょう。」
「魔法師の奴隷なんているんですか?」
「可能性としては、そちらの方があると思いますよ。」
奴隷の事は後にして、ハルはこの家を購入した。
金貨にして430枚。
ハルが相場を見誤ったのは、ここが地方都市で土地も余っているという事だった。
だから、それなりに広い土地と立派な屋敷が買えてしまったのだ。
結果的には、魔道具の備えつけられた家を買えたのだから、大正解だったと言えるだろう。
サキとハルは早速その家に案内された。
直前まで人が住んでいたため、庭も建物も手入れが行き届いている。
「えっと、こちらメイド長だったリュカさんです。そのまま継続して働いてくださるそうです。」
「それは助かります。アタシは冒険者のサキって言います。」
「えっ、新しいご主人様は冒険者をされているんですか?」
「ああ、アタシは居候みたいなモンです。後で、本当の主を紹介しますよ。」
「失礼いたしました。冒険者の方が、これだけのお屋敷を所有されるのは意外だったものですから。」
「それで、お部屋の方は如何なさいますか?」
「アタシは2階の一部屋を使わせてもらいます。主が1階を使いますから、メイドの方も2階の部屋を使ってください。」
「ですが、それでは……」
ギルドの職員からカギを受け取り、彼が帰ったあとでハルが話しかけた。
「えっと、驚かないでください。私がこの家の主、ハルと申します。」
「えっ、ええっ!」
リュカが目を丸くして驚いた。
ウエーブのかかった栗色のセミロングヘアーが揺れる。
年齢は40才くらいだろうか、胸の豊かなスタイルでありながら、知的な切れ長のブルーアイが印象的だ。
「人間ではありませんし、ネコでもありません。人間によって作られた、意思をもった人形と言ったところですね。」
「は、はあ……」
「サキは、私の代わりに人間の中で行動してもらいます。実際に食事とかが必要なのはサキだけで、私は食事も入浴も睡眠も必要としません。」
「では、私どもはサキ様のお世話をさせていただくと……」
「サキも、あまり手をかけなくて大丈夫です。主な役目は、屋敷の維持管理だと思ってください。」
「それ、酷いんじゃないの!」
「だって、リュカさんが私の代行をしてくれたら、君のする事はなくなってしまうだろ。」
「ちょ、待って!ギルドの依頼は、アタシの名前で出しているんだからね!」
「それがあったか……」
「まさか、ハル、ホントにアタシを捨てるつもりじゃないわよね。」
「サキ、リュカさんに金を10キロ渡して。」
「はいよ。」
サキはリュックから金の塊を10個出してリュカに渡した。
「換金屋持っていけば、一つで金貨125枚と交換してくれます。ジェドさんって人にサキの使いだと言えば、余計な手間をかけずに換金してくれるハズです。」
「125枚ですか……」
「メイドさんの給金を含めて、これで賄ってください。」
「えっ!」
「屋敷の事はリュカさんに全部お任せします。」
「そんな……」
「足りなくなったら追加しますので、リュカさんの裁量でやってください。」
「そこまで信用いただけるのなら……承知いたしました、ハル様。」
【あとがき】
拠点の確保完了。
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