第2話
【おもしろきこともなき世をおもしろく】と名付けられたタイトルが目に入ってくる。めろりんめろんのブログのトップページだ。また、今日も、か。よくもまあ、飽きもせずに続けられるもんだ。めろりんめろんである僕……、夢の中の僕は僕の意思と関係なく動いている。僕の意思ではめろりんめろんの身体は指一本動かせないし、目に耳に入ってくる情報はめろりんめろんの目と耳を介したものだ。無力すぎる幽霊が誰かに憑依したなら、ちょうどこんな感じなんじゃないだろうか。
めろりんめろんの指が軽快にキーボードを叩く。
『慶応義塾大学に通っていた頃は充実していた』
めろりんめろんである僕は自動書記で打ち込まれたブログのサブタイトルを見て思う『ホントかよ』と。そんな名門大学を出て、現在は引きこもりのニートだ? そんな訳ないだろう。そんな僕の思いはどこ吹く風とめろりんめろんは本文を打ち込んでいく。
『斎藤教授の講義で出会った女子との思い出を今回から書き綴っていく事にする。その女子の名前は香川芳江。めちゃくちゃ美人でスタイルも良かった。彼女との出会いは衝撃的。大講義室の壇上で滔々と語る教授の話に聞き入っていたオレの頭を後ろから思いっきりグーパンで殴ってきたのが香川芳江だった。驚いて振り向いたオレにアイツは言った『ごめんあそばせ、ハチが頭にたかっていましてよ』って。まさに青天の霹靂。一度目の衝撃は後頭部の痛みだった。二度目の衝撃は香川芳江のその態度。三度目の衝撃はその美貌だった。まさか、そんな出会いからオレが彼女と付き合うようになるとは。誰にも想像できなかっただろう』
めろりんめろんはそこで本文を打ち終え、その記事をネット上に晒すバナーにマウスポインタを持って行ってノートPCのスライドパットをタップした。マジかよ。こんなうっすい内容で、しかも嘘臭さ半端ない文章をアップするのかよ。たまたま見かけた通りすがりの人間がこれを読んで、そいつは一体なにを思えばいいんだよ。っていうか、それはまさに僕な訳だが。僕はこの文章を打ち込む体験と読む体験をさせられて、一体なにを思えばいいんだ。
ま、それでも、前回までの悪意に満ちた罵詈雑言よりマシか。めろりんめろんが毎日視聴しているYouTubeへのヘイト満開の呪詛のような独り言よりはマシか。
ま、そういう書き込みはやっちゃうよな。
なんだろな。ああいう書き込みの後って、なんか、ちょっとだけスッキリするからな。
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