第28話『誰も呼んでないはずなのに、机の引き出しから出席を取られた』

 朝、まだ先生が来る前。

 机に突っ伏して半分寝てたら、

 急に――**「佐藤くん、いる〜?」**という声が聞こえた。


 


 ……え?誰も呼んでないよね?


 


 顔を上げても、教壇には誰もいない。

 クラスメイトもまだ半分ぐらいしか来てない。


 でも、声はたしかに聞こえた。

 しかも、机の引き出しの中から。



 ***


 まさか、と思いながら

 そ〜っと引き出しに耳を近づけたら、


「中村さん、おやすみ〜」

「次、鈴木さん……?」


 


 出席とってる!!!しかも小声で超ていねいに!!


 


 慌てて引き出しを開けると、

 中にいたのは――豆粒くらいの小さな事務員風のおじさん。


 


 蝶ネクタイに小さな名簿。

 どう見ても出席係。


 


「おや、ご在宅ですか?あ、いえ、ご登校ですか」

「こちら“机下教育局・仮設出席係”でして」


 


 勝手に設置するな!!ていうか教育局どこ!?引き出しの下!?



 ***


 それからというもの、

 僕の机の引き出しから、朝のたびに誰かの名前が呼ばれるようになった。


 


 ガタッ……「山本さん、体育着忘れてますよ〜」


 ギィ……「吉田さん、今日ちょっと顔色悪いですね?」



 


 だんだんただの出席じゃなくなってる。

 なんか、生活指導みたいになってきてる。



 ***


 先日はプリントを取り出した瞬間、

 中から手書きのメモが挟まってた。


 


「5時間目の理科、なかったことにしませんか?」




 


 共謀か!?引き出し内でストライキか!?



 ***


 とはいえ、悪い人(?)ではないらしく、

 僕の提出物の期限もそっと教えてくれるようになった。


 今日なんて、



「社会のプリント、後ろの棚に落ちてますよ」




 って小声で教えてくれたし。


 


 引き出しに誰かいるの、

 ちょっとだけ便利かもしれない。



 ***


 完(声をかけられるって、案外ほっとする)

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