第17話『風呂に入ったら、そこは異世界に通じていた』

風呂に入った。

いつも通り、浴槽にお湯をためて、バスソルトも入れて、スマホで音楽をかけて、今日もいい湯加減――


だったはずなんだけど……


***


ふと目を閉じて、しばらくつかっていたら、

足元に違和感があった。


なんか……

湯船の底、深くなってない?


***


目を開けた瞬間、

浴槽が“泉”になっていた。


そして、対岸にドラゴンがいた。


***


「……え、なにこの感じ……」


僕はパジャマじゃなく、

なぜかタオル一枚になっていて、


目の前のドラゴンは、こう言った。


「貴殿が“湯の契約者”か」


***


知らないし、そんな覚えもない。

ていうか、肩までちゃんと湯につかってるドラゴン、和む。


***


その後、異世界の人たちに囲まれて、

「湯気の使い手!」「アツ湯の民よ!」「ふろマスター!!」

と持ち上げられたけど、僕はただ――


風呂に入りたかっただけなんだ。


***


結局、背中を流してくれたエルフのお姉さんが

「この世界では、湯に導かれし者が通ってくるのです」とか言ってた。


でも最後にひとこと、


「追い炊きができるようになったら、また来てください」


***


帰ってきたら、風呂の温度が0.5℃下がってた。


きっと、あの世界でも同じだったんだと思う。


***


完(次は水風呂で通ってみるつもり)


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