Ⅱ.15歳と39歳

 僕らの「時間」が狂い始めたのは、12歳の誕生日だった。

 確かに、あの日僕らは共に、同じ日を、同じ歳で、同じ時間に向かえたはずなのだ。

 そして今日は、僕の15歳の誕生日。そして……。

「おはよう。お誕生日おめでとう、明梨ちゃん」


「あっ、おはよう、うみくん。お誕生日おめでとう」

 私の39歳の誕生日。

 今日は、同じ日に産まれた友達のうみくんと一緒にお祝いをする。

 もう朝なんて時間ではないのにおはようと言われ、大学生の頃のバイトを思い出し、自然と笑みがこぼれる。

 ソファに座るうみくんのもとへ、手作りのケーキを持っていく。

「もうすぐ受験なんですよ、僕」

「うん、そうだね。私には、すごく前のことだけど……」

 

 始めた会話が、すぐに沈黙へと変わる。

 明梨ちゃんは、昔からそうだ。

「ねえ」

「うん?」

「明梨ちゃんには、僕の生きてる時間って、どう見えてるの?」

 一瞬だけ、きょとんとすると、すぐににっこり笑って、明梨ちゃんは答えた。

「普通に、私と同じ速さで、同じ場所を生きているように見えるよ。でもね、私の目線は変わっていくの」

「目線……?」

「あの時、私たちと一緒に小学校を卒業した子たちってね、今、21歳なんだよ。大学生活とか、お仕事とか、そういうの、真っ只中な人たちで」


 また、沈黙。

 私は、小さい頃からそう。

「……じゃあ、うみくんは、どう見えてるの」

「え?」

「私の生きている時間って。同じ日に、一緒に産まれたはずなのに、いつのまにか、何歳も離れていっている」

「……」


 僕には、どう見えているか。

 明梨ちゃんがさっき言っていた、「目線」という言葉が、僕の感覚にぴったりと寄り添っていた。

「……明梨ちゃんと、同じだよ。ただ、いつの間にか、明梨ちゃんは大人で」

 そういえば。

 どうして明梨ちゃんは、僕らと一緒に小学校を卒業した奴らが、今21歳なんだって知ってるんだろう。

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