第2話 転生の訳と姫との生活

 すべてはあの日から始まった……

 蝙蝠コウモリの翼を我が物とした日、マロニエ王国の奴等を震撼させてやろうと、たった一人で飛び立った私は漆黒の空を切り裂き、マロニエ王城のバルコニーに降り立った。


 “妖”と化していた私は、腰を抜かして動けないで居る侍女の若い生き血をまず啜らんと

 “獣になった”手を振り下ろした。


 しかし、その鋭い爪が掛けたのは侍女を庇ったアドラー姫の背中!!


 決して傷付けてはいけない唯一無双の“宝石”から吹き出した赤いしぶきで私は我に返り、自らの行為に恐怖した。


 そしてその瞬間、私とアドラー姫は彼の地から、ここ『ニッポン』へ転生し、この世界で生きる羽目となった。


 “魔”属性の私にとってはその“環境”を取り込み“市井の草”と化すのもさしたる事では無い。

 しかし気高い王族の象徴たるアドラー姫には、それは容易ならざる事の様で……

 私は傷を付けてしまったせめてもの罪滅ぼしにとアドラー姫を匿い、“サラマンダー”と言う二つ名を棄て『サラリーマン川森太郎』として“スーツ”という戦闘服を身に纏った。


 だが、ここの生活は、アドラー姫にとっては鉄と石に囲まれた牢獄の様なものなのだろう。


 マンションの一室は豪奢なドレスには狭すぎるので、やむを得ず“下僕の様な”服を身に纏ってはみたが「ああこれならば、生まれたままの身で居る方がマシ!」と姫様はの裾を涙で濡らした。


 そしてそのうちに……独りで居る時には何も身に着けなくなってしまった。


 なぜそれが分かったのかと言うと


 遅く帰ってきたある夜、姫様はこたつの中に半分潜り込んで寝入っていたが、その背中はプラチナブロンドの髪しか纏ってはいなかった。


 丁度“あす楽”で買ったばかりの毛布があったので掛けてあげようと近付いたら姫様は軽く寝返りを打った。

 髪の房が割れて……その隙間から覗く“私の爪痕”に毛布の持つ手が震えて、姫様を起こしてしまった。


 頭を擡げた姫様はそのブルームーンダイヤの様な瞳で、毛布を手に持ったまま凍り付いている私を見据えた。


「あなたは勝者!たかがに対し、いたずらに罪を感じ打ち震える必要はございません」


 その言葉に私は完全に敗北し、跪いて姫様の御み足を頭にいただいた。


 その時から、姫様の全てのお世話は私が執り行った。


 そう、どんな事も……姫様はまるで侍女に申し付けるように私にやらせた。

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