邪悪な王子に刺され、姫は霧のように消えた

縞間かおる

第1話 美の至宝である姫に傅く私は邪悪な王子

 私の朝食なぞ、魚肉ソーセージに1杯の牛乳で良いのだが、姫様はそうはいかぬ。

 ウィスキーを呷る様に牛乳をグイッ!とやり、葉巻の様に魚肉ソーセージを咥えて私はいそいそと姫様の朝食の準備を始める。


 チェリータイプのモッツァレラチーズとミニトマトをおのおの4等分に切ってクラッカーにのせクレージーソルトを掛ける。

 冷蔵庫からコンビーフとクリームチーズを混ぜ合わせて作ったディップを取り出し、これもクラッカーにのせ、イタリアンパセリで飾り付けした。


 うん!いい色どりだ!


 近頃、また食の細くなってしまった姫様の目を楽しませ、少しでも食が進めばと願う。


 姫様は……どうやらご自分が太ってしまったと気に病んでいる様だ。


『体重がリンゴ3コ分のどこかのネコ』ならまだしも、ここ『ニッポン』の男共とさほど変わらぬ背の高さの姫様なのだから……ほんの数百グラム増えたとしても、どうと言う事は無いのに……

 武骨物の私はこう思うのだが、姫様にとっては天地がひっくり返えらんばかりの一大事らしい。


 自らの美に対してとても神経質な姫様は姿を玄関に置かれた姿見に映し、日に何度もチェックなさる。


 どうかすると私の前に立ち塞がってご自分のスマホを押し付け、私に撮影を強要なされる。


 眩いばかりの美の極致!!


 正視するのは躊躇われるが、カメラの角度をおかしくして事実とは異なるに映ってしまったりしては大変な事になるので、正しく撮る事に集中して私はシャッターを切る。


 画面を通して見るそのお姿は……“彼の地”において『アドラー姫こそマロニエ王国の至宝』と謳われた完璧なる美!!


 その類まれなる美のすべてを……敵国であるグルガルタ公国の邪悪の象徴たるこの私!『悪魔王子ラガルト』が目の当たりにすることになろうとは……

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