第7話見返りを求めた訳じゃないけど…

『一年二組の曽根崎さん。曽根崎優花さん。職員室まですぐに来て下さい』



 。校内放送を流してくれたのは俺の担任でもある中村先生だ。みんなの視線が曽根崎さんの胸に釘付けになっていたので、ソロ~っとその場を抜け出して曽根崎さんがマラソンから抜け出せるように頼んできたんだ。曽根崎さんは「…た、助かったしぃ~~~」と、心からの声を絞り出すように洩らした後、フラフラとしながらも職員室へ向かった。


 



「「「「「「チッ…」」」」」」



 それにしても先生を含めた男子生徒達は欲望を前面に出しすぎだろっ!?みんなして舌打ちまでしてるし…。舌打ちしてる場合じゃないんだけどな。


 だって先生を含めた男子生徒達全員に小野寺さんからの軽蔑するような冷たい視線が向けられているのだから。






♢♢♢


 体育の時間が終わった後の事だ。教室は静まりかえっていた。その主な原因は男子達が小野寺さんのあの冷たい視線に気がついたからだろうな。前屈みになるほどいやらしい視線を曽根崎さんに向けていたのを見られていたのを知ればそうなるよな。まさに穴があったら入りたいというのはこういう時に使う言葉だろう。


「──あ、あの…」


 そんな空気を変えたくなったのか…あるいは耐えられなくなったのか池面君が小野寺さんに声を掛けるのが聞こえてきた。ある意味勇気があると思う。クラスメイトの男子達も池面君達の会話に興味があるようで耳を傾けているのが見てとれる。みんなして耳がピクピク動いているしな。ホント分かりやすいな!?


「…何かな?」


 返事を返した小野寺さんの声はいつもの透き通るような声とは違い底冷えするかのように冷たい。


「な、なんか…小野寺さんの機嫌が悪いみたいだから…その…心配で…」


 池面君よ…機嫌が悪いみたいじゃなくて、現に機嫌が悪いんだと思うぞ?


「…私の心配より…曽根崎さんの心配というか、曽根崎さんを気遣ってあげて欲しかったかな」


「い、いや…それは…」

「曽根崎さん…あれ以上走るのはどう見ても無理だったよね?」

「で…でも…それは…じゅ、授業だし…まだ走れそうだったし…」

「曽根崎さんの胸ばかり見てたから気付かなかっただけじゃないの?」

「っ!?」


 その言葉に池面君だけじゃなく、クラス中の男子が息を呑む。



「…私自身…止められなかった不甲斐なさを感じてるんだけどね……」


「で、でも…棒立先生は…も、もう居なくなるだろうし…」


 当然だけど棒立先生は校長室に呼び出されている。多分首になるだろうな。聞いた話じゃあ前から女子を走らせては、胸やらお尻やらを見て、いやらしい顔をしては前屈みになってたらしいしな…。その時点で考えろよと思わなくもないが女性が少なく、また…女性に対する耐性も低いだろうからある程度は許容される部分もあったんだろうな。だけど今回は流石に許容できなかったんだろうよ。体力の限界を超えた曽根崎さんを無理に走らせたからな。


 早い話、あくまで女性優先の社会だからな。女性が黒と言えば黒、白と言えば白になるだろうし…。


「私も偉そうには言えないけど…棒立先生うんぬんじゃなくて…自分がどうするかじゃないかな?」


「そ…れは…」


「…私…次の授業の準備するから…もういいかな?」


「あっ、は、はい…」 



 席が隣という事もあり、少し仲良くなって最高に主人公してただろうにそれが崩れるか…。俺も日頃からの態度とか気をつけないとな。池面君には悪いが勉強になったわ。


 



♢♢♢



 そんな出来事から三日後の事だ。クラスメイトのこんな会話を耳にしたんだ──



「──なあなあ、聞いたかよ?」


「何をだよ」


「メロン姫の事だよ」


「あ、ああ…それな」


「ビックリだよな」


「でも…当然そうなるか?」


「だな」


 

 一体何の話なんだ?メロン姫って…確か曽根崎さんの事だよな?


「いやぁ~ 俺があの時メロン姫に手を差し伸ばしていればなぁ…」


「俺も思った」


「そうすりゃあ今頃曽根崎さんから猛アタックされていただろうにな」


 猛アタック…?


「羨ましいよな…中村の奴…」


「他にも聞いた話じゃあ手作り弁当を中村に持っていってるんだろ?」


「曽根崎って料理出来たんだな…」


「見た目ギャルなのにな」


「ギャルは関係ないだろ?」


「ロリは正義」


「それは…共感するわ!」


「とにかく…中村に棒立からあんな風に助けられたなら…そりゃあメロン姫からしたら中村は白馬の王子様だろうしな」


「「「ホント…中村先生羨ましいよなぁ」」」




「「──えっ?」」



 思わず洩れ出てしまった声なんだけど、どういう訳か小野寺さんと声がタイミングよく重なってしまった。小野寺さんが俺と同じようにこんな間の抜けた声を出すなんてな…。



 そ、それはともかく置いておくとして…こういう時って…俺じゃねえのっ!?中村先生じゃなく俺ではっ!?いや、見返りを求めた訳じゃあないけどさぁ…。普通ここは俺になんらかのアクションがあってもおかしくないんじゃないのっ!?前世もそうとう厳しかったが、この世界もホント俺に厳しいな、おいっ!?


 泣くぞ?そろそろ泣くぞ?本当に泣くぞ?心ではすでに泣いていて、川が氾濫しとるわ!?


 


 ま、まあ…あの時中村先生が曽根崎さんを校内放送で職員室に呼び出したし…その後も多分世話を焼いてあげたんだろうな…。くっ…すでに結婚しているにも関わらず二人目かよ!?多重婚は認められているから問題はないんだろうけど…これだから勝ち組って奴は…。




 

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