第6話歓喜の声

「おっは~!豊和」


 学校へ向かおうと自宅を出るとすぐに俺に気がついた大地が声を掛けて近づいてきた。一緒に通学する為に家の前で待ってたんだろうな。そこはヒロイン枠に譲れよと内心思う。そんな大地の家は俺の家の三軒先。そこも何故ヒロインに譲らなかったのかと思うと自然とため息が出てきた…。


「…はぁ~~~っ」


「おまっ!?人の顔見てため息つくなんて失礼じゃねっ!?」


「仕方ないだろ?自然と出てきたんだから」


「出てくる時点でおかしいだろうが!!」


「悪い悪い。幼馴染枠がヒロイン枠じゃなかった俺のこのどこにもいきようがない気持ちを汲んで許してくれ」


「…ったく…豊和は相変わらずだな。だけどそれは俺にも言えるよな?何故豊和がヒロイン枠じゃないのかと」


「それは…まあ…そうだな」


「まあ、そんなわけで…最悪豊和が性転換手術を受ければいいんじゃないか?」


「俺をヒロイン枠にするんじゃねぇーよ!?俺は絶対受けないからな?」


「マジにとるなよ?冗談なんだから」


「冗談でも言わないでくれ。それより学校に向かいながら話そうぜ?」


「へいへい」


 この世界の性転換手術は進んでいる。男性が性転換手術を受ければホントの女性になれるんだ。勿論子供を授かる事もできる。戸籍上は一応男性→女性とつくけどな。だからこそ人口は前世の地球と比べても大差ない…いや…多いかもな。なので少子化の心配も今のところは必要なさそうだ…。


 それでも最初から女性の出生率は相変わらず悪いみたいだけど。



「──冗談はこれくらいにして、豊和は昨日真鰯ウルメちゃんの配信見たか?」


「真鰯…ウルメ…?どっちも魚のイワシだよな?」


「何言ってんのっ!?俺が散々おすすめしたVチューバーだよ!!」


「…ああ。大地がこの間言ってたVチューバーか。悪い。忘れてた」


 そういやあ、大地が興奮してまくし立てるように言ってたっけ。確か何ヶ月か前にデビューした女性Vチューバーで、最速で登録者数200万人を突破したとかなんとか…。


「忘れてたって…お前なぁ…あれほどおすすめしてやっただろ?ガワは勿論の事、配信は見てて楽しいし、まず飽きない。そしてなにより声がいい」


「そう言ってたな」


「帰ったら見ろよ?まあ、とにかくだ。昨日そんなウルメちゃんの配信があったんだけど、その中で、なんと初恋もまだじゃないかっていう話が出たんだよ!そんな初心なところがまた可愛くて可愛くてな?チャット欄も沸きに沸いてたし、あれ見たら絶対に豊和もハマるって!」


「…へぇ~」


 初恋か…。今世ではまだ初恋はないけど、前世ではあったなぁ。残念ながらその初恋が成就される事はなかったけども…。淡い想い出だな…。




「時間があったら見てみるよ」


「時間はあるだろ!?登録もちゃんとしろよな?」


「…大地は信者か何かなわけ?」


「彼女の初配信からのウルメンだ!!」



 ドヤる大地。ドヤァとした表情で言われてもな。まずウルメンてなんだよ…?聞いたら聞いたで面倒くさそうだし、下手に藪はつつかない方がいいな…。


「ほら、ドヤってないで急ぐぞ?大地のせいで遅刻してしまいそうだからな」


「んっ?ああ。悪ぃ…」



 俺が駆け出すと大地も駆け出す。大地は顔も運動神経もいい。俺と性格もあう。いや、ホント…何で女性として生まれてきてくれなかったんだよ…。


「それなっ!」


「心を読むな!」



 ホントついてないというか。呪われてんのか俺?童貞の呪いってあるんだろうか?





♢♢♢



 紅薔薇の華…白薔薇の君などなど。うちの学校の女性達には誰がつけたか分からない呼び名がある。目の前で校庭のトラックを走っている小柄な彼女にも勿論あだ名がついている。


 “ロリギャルのメロン姫”


 それが隣のクラスの曽根崎優花そねざきゆうかさんの呼び名。


 ホント最低なあだ名だなっ!?誰がそう呼んだんだよっ!?もう少しあっただろっ!?



「──流石メロン姫…上へ下へバインバインだな」


「うぉい!?最低だな大地っ!?」


「いやいやいや…アレは見るだろ!?見てみろ!みんなの視線を独り占めしてんぞ?」



 周りの声に耳を傾けてみると…傾けなくても聴こえてくるんだけども…


「ロリでギャルであの巨乳は…反則だろ?」

「いっぱい揉まれてんのかな?」

「挟まれてぇ~~~」

「パフパフってな♪」

「プリッとしたお尻もいいよな?」

「あれでギャルの格好してんのがまたいい」


 ホント最低だなっ!?セクハラだぞ?聞かなければ良かったわ。しかも当然のようにみんな前屈みになってるし…。俺も男だし、気持ちは分からんでもないけども…。



 何故こうなってるかというと本日はこうして俺のクラスの1組と隣のクラスの2組と合同で体育の授業でマラソンが行われていて──


 


「──よし、曽根崎そねざき!後一周だ!」


「ふっ…ふっ…はひぃ~はひぃ~…な、何であ~しだけ…」


「周回遅れなんだから仕方ないだろ!いいからサッサと走れっ」


「も、もう…無理っしょっ!?」

 


 ──聞いての通り曽根崎さんは周回遅れ。他のみんなはすでに走り終えていて、曽根崎さん待ちという状況なんだ。小野寺さんは運動は得意みたいで走り終えて休んでいる。走っている時は小野寺さんにも多少男子の視線がいってたみたいだけどな…。


 それにしても体育担当の棒立ぼうだち先生も前屈みになってるのは最低だと思うが…?問題だろうに…。


 曽根崎さんの様子を見る限りもう一周は流石に無理だろ。小野寺さんは心配そうに見てるけど転校してきたばかりだし、止めていいのか、どう声を掛けていいのか分からないんだろうな。


 それに…曽根崎さんの女性警護官達もそれを止める様子は何故かなさそうだし…。



 仕方ない…。







 


 それから…2、3分もしないうちに──



『一年二組の曽根崎さん。曽根崎優花さん。職員室まですぐに来て下さい』




 校内放送が流れた。 





 

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