きみは幸せでしたか?
三愛紫月
君のこと
生きているということは残酷なことだ。
そう知ったのは、君を失った日で。
誰かの日常の音にさえ、嫉妬をするようになった。
それでも、この
「レイには生きていて欲しい」付き合って5年。
突然言われた言葉に驚きながらも「生きるよ」と嘘をついた。
君は産まれた頃から病気を抱えていた。
治療をすると一時的によくなるけれど。
一年足らずで、また悪くなる。
そのスパンがどんどん短くなっていき、やがてその
君の両親は、葬儀のあと俺に「レイ君と出会ってから娘は幸せでした」と言ってくれた。
本当にそうだったのだろうか?
付き合ってから、何度も何度も喧嘩して。
君を何度も泣かせた日もあって。
病気だって頭のすみではわかっているのに、普通の人と変わらないように接しちゃって。
喧嘩するのは君の負担になる。
わかっているのに止められなくて。
言い合いになって、君は泣いた。
それでも、止められなくて。
君も負けじと言ってきて、何日も無視したりして。
仲直りしたら、夜中まで電話したり。
二人で寝ずに映画を見たり。
最後の一年は、君が両親にワガママを言って同棲までした。
美味しいものを食べて笑って。
お酒まで飲んで。
君の
俺に出会わなければ、君は今も生きていたのではないか。
そう思うと君がお墓に入ってから一度も手を合わせにいけていない。
君の両親は、「レイ君は若いんだから。娘を忘れて幸せになっていいのよ」と言ってくれたけれど。
忘れることなど出来ないし。
忘れたくなかった。
君をたくさん泣かせて。
自分だけ幸せになることなんて出来ないよ。
明日で、君がいなくなって一年だ。
ーーピンポーン
「はい」
「速達です。ハンコお願いします」
「はい」
インターホンが鳴り、玄関を開けると郵便局員が封筒を持ってたっていた。
「はい、これ速達ね」
「ありがとうございます」
ハンコを押して封筒を受けとる。
封筒には、君の名前。
俺は、ハサミをとって封筒を開ける。
中身を取り出すとピンク色の封筒とメモ。【レイ君へ 娘から預かっていました】
そう書かれたメモが添えられていた。
ピンク色の封筒を開けると懐かしい文字が並んでいる。
【レイへ】
この手紙は、お母さんに預ける事にしました。
だって、私がいなくなったレイにこれをすぐに読ませたって意味ないでしょ。
意味ないぐらい自分を責めてるでしょ。
初めの文章だけで、君が書いた事はすぐにわかる。
丸文字の可愛い字を書く君の文字が好きだった。
懐かしくてどんどん手紙を読み進める。
最後の文章を読んだ瞬間、俺は家から飛び出して走り出していた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
走って、走って、君の元に行かなくちゃ!
そして、伝えなくちゃ!
手紙の最後の文章が頭の中で再生される。
【私ね、神様に胸を張って言えることが一つあるの。病気だけの人生で心配されて大事にされて腫れ物に触るみたいな私を普通の女の子として扱ってくれたレイと居れて幸せって。だけど、レイはどうだった?きみは幸せでしたか?】
俺も君に伝えたい。
君との日々は、幸せだったと……。
きみは幸せでしたか? 三愛紫月 @shizuki-r
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます