第2話:覚醒と不安

意識がゆっくりと戻ってくる。

冷たい床が肌に刺さるようだった。全身が重く、鈍い痛みが骨の奥まで染み渡っているような感覚だ。頭の中が霞んで、思考がまとまらない。

――ヒカリ……。

無意識のうちに妹の名前を呟いた。喉が乾いていて、声がかすれ、まるで砂を嚙みしめたような感触が残る。それでも、ヒカリの名前を口にすることで、俺は自分が何を守らなければならないのかを再確認できた気がした。


目を開けようとするが、視界がぼやけて何も見えない。何度も瞬きをして焦点を合わせようとするが、頭痛がそれを邪魔するように鋭く響く。まるで脳が溶けてしまいそうな感覚だ。


数秒が経過した頃だろうか。少しずつ視界がクリアになってきた。すると、目の前に青白く光る半透明の画面が浮かんでいるのが見えた。その光は微かに揺らめき、現実離れした存在感を放っていた。

「……なんだ、これ?」

思わず声に出してしまった。あまりにも不自然な光景に、混乱が押し寄せる。画面にはシンプルなメッセージが表示されていた。

『世界管理者からのメッセージが届いています』


「世界管理者? メッセージ?」

言葉の意味を考える余裕もないほど、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。一体何が起こったんだ? この光景は夢じゃないのか?

だが、それよりも今は――

「ヒカリ……!」

妹の無事を確認しなければならない。その思いが俺の中で優先順位を占める。


その瞬間、目の前の画面がふっと消えた。

「え……!?」

驚きで固まる暇もなく、周囲を見回す。体をゆっくりと起こすと、目に飛び込んできたのは異様な光景だった。多くの人々が床に倒れている。まるで時間が止まったかのような静寂が広がっている。窓から差し込む薄暗い光だけが、この場所にまだ“生”があることを示している。


「……何が起こったんだよ……!?」

混乱しながら隣を見る。そこには、動かないヒカリの姿があった。彼女は地面に横たわり、目を閉じている。


「ヒカリ!」

慌てて肩を揺さぶるが、反応がない。呼吸をしているかもわからない。心臓が早鐘のように鳴り響く。手のひらが汗ばむ。焦燥感が胸を締めつける。

「くそっ……!」

すぐに冷静にならなければ。そう自分に言い聞かせながら、耳を彼女の胸に当てる。微かに鼓動が聞こえた瞬間、安堵の息が漏れた。


「……よかった……生きてる……」

一瞬だけ心が軽くなったが、すぐに現実が押し寄せる。ここには大勢の人々が倒れていて、誰も助けを呼ぶことができない。一体何が原因なのか、どうやって対処すればいいのか、まったく手がかりがない。


「……ここは危険だ。早く外へ……!」

そう直感した。安全な場所を探さなければ。ヒカリを守るためにも、ここから脱出しなければならない。


「ヒカリ、少しだけ我慢してくれ……」

おんぶをするようにヒカリの体を持ち上げる。思った以上に彼女は重かったが、躊躇している時間はない。震える足で立ち上がり、周囲を見渡す。床に散乱する人々を避けながら、慎重に歩を進める。ショッピングモールのフロアを抜け、非常口を目指す。


出口が見えてきたとき、ようやく希望が見えた気がした。しかし――。

「……あれは……?」

外に目を向けると、地獄のような光景が広がっていた。青白い光が街全体を覆い尽くし、空には黒い亀裂が走っている。建物は崩壊し、人々がうめき声を上げながら這いずり回っている。そして、遠くでは巨大な影が蠢いているのが見える。


「……なんてことだ……」

絶望的な現実に、全身から力が抜けていく。それでも、背中のヒカリを感じながら、俺は一歩ずつ前へ進むしかなかった。

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