第1話:崩壊の日
第一話:崩壊の日
ショッピングモールは、週末の賑わいに満ちていた。
人々は楽しそうに買い物をしていた。
それが最後の平和な日になるとは、誰も知らずに過ごしていた。
その幸せそうにしている人々の中に、一人の兄妹がいて、彼らもまた買い物を楽しんでいた。
兄ユウト十六歳と妹ヒカリ十三歳は、休日の午後を楽しむために訪れていた。ヒカリが楽しそうに雑貨店の商品を手に取る姿を見ながら、ユウトは微笑んでいた。彼女にとって今日は特別な日だった――明日から中学校の文化祭ということもあり、少しでもリラックスしてもらおうと、兄妹水入らずで過ごす約束をしていたのだ。
「ねぇ、これ可愛いと思わない?」
ヒカリが明るい声で振り向く。その笑顔を見て、ユウトは「買っちゃえば?」と軽口を叩き返した。二人の会話は穏やかで、何の不安もない日常そのものだった。
しかし……その日常は、一瞬で終わりを迎えた。
突然、轟音が響き渡った。
まるで空が引き裂かれるような爆発音と共に、窓ガラスが粉々に砕け散る。
「ひゃあっ!」
ヒカリが驚きの声を上げた瞬間、ユウトは反射的に妹を抱き寄せ、地面に倒れ込むように身を伏せた。鋭利なガラス片が周囲に飛び散り、耳をつんざくような悲鳴や叫び声が響き渡る。
「大丈夫か、ヒカリ!」
ユウトは必死に妹の小さな体を自分の腕で覆い隠しながら尋ねた。恐怖に歪んだ顔をしていたヒカリだったが、兄の胸の中でしっかりと守られていることに安心感を得ているようだった。
「……う、うん……」
震える声で応えるヒカリ。だが、その目には涙が溜まり始め、今にもこぼれそうになっていた。
爆風がモール全体を襲った。
人々は次々と混乱し始める。逃げる者、叫ぶ者、泣き叫ぶ者。誰もが何が起こったのか理解できないまま、ただ本能的に行動していた。一部の人は携帯を取り出し助けを呼び求めようとするが、画面はノイズだらけで何も表示されない。
そして――数分後。
青白い光の波動が、ゆっくりとモール内を包み込んでいった。それは目に見える形で広がり、すべてを飲み込むように進んでいく。
「……な、なんだよ、これ……?」
ユウトはその異様な光景に目を見開いた。青白い光は冷たく、どこか不気味な存在感を持っていた。それが自分たちをすり抜けていく瞬間、背筋に寒気が走った。
同時に、モール内の電気が完全に消えた。照明が落ち、エスカレーターが停止し、デジタルサイネージが真っ暗になる。一瞬にして場内は暗闇に包まれ、人々の悲鳴がさらに大きくなる。
「ヒカリ、しっかり掴まってろ!」
ユウトは妹を強く抱きしめ直した。しかし、次の瞬間、彼の腕の中でヒカリが絶叫を始めた。
「痛い! お兄ちゃん、痛いよぉっ!!」
ヒカリは暴れるように体を捩り、ユウトの胸を押し返そうとする。その顔には苦痛が浮かび、唇は真っ青になっていた。
「落ち着け、ヒカリ! 大丈夫だから!」
ユウトは必死に妹を押さえつけ、声をかける。しかし、ヒカリの身体はどんどん熱くなり、小さく痙攣を始める。その様子にユウトは焦燥感を覚えたが、どうすることもできなかった。
次の瞬間、ユウト自身にも激しい痛みが走った。
「ぐあああっ!」
まるで魂そのものを引き裂かれるような痛みが全身を貫く。頭の中がぐらつき、視界が歪んでいく。目の前ではヒカリが同じように苦しみ悶えているのが見える。彼女の小さな手が宙をかきむしるように動いているのが、最後に見えた光景だった。
「……っ、ヒ……カリ……」
意識が遠のいていく中で、ユウトは妹の名前を呼び続けた。しかし、声は虚しく虚空に溶けていく。
そして、彼もまた気絶する寸前、一つの疑問だけが脳裏をよぎった。
「一体……何が……起きてるんだ……?」
幕間:新世界への序曲
青白い波動は、ショッピングモールだけでなく、地球全体を覆いつくしていた。
『強制進化――開始』
無機質なアナウンスが再び響き渡る。その声には感情も意志もなく、ただ冷徹な宣告として残された者たちに届けられた。
誰もが気づいていないが、この波動は人間の生命体を根本から変容させる“鍵”となるものだった。適応できる者、そしてできない者――その選別が始まろうとしている。
ユウトとヒカリの運命もまた、これから大きく動き出すだろう。
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