第8話 謎の勝負

「ここ?」


「そう。ほんとは友好関係築く為に来たかったんだけどな」


 祐希ゆうきの彼女さんである山坂やまさかさんと雰囲気が悪くなってしまった僕達は、祐希の案内でボウリングを始めとした、様々なスポーツやカラオケなんかを出来る施設へやって来た。


「なるほど。ここで勝負をして完全に上下関係を決めるんですね」


騎麗きらよ、なんでそこまで大雅たいが白百合しらゆりを敵対視する」


「別にしてませんよ? 騎麗は嘘がつけないだけです」


「お前な……」


 祐希は基本的にいつも疲れた顔をしているけど、今日は一段と疲れた顔をしている。


 大丈夫なのだろうか。


「まあいい。とりあえず雰囲気悪いからルールを決めよう。大雅と白百合は騎麗に求めることはあるか?」


「とりあえず二度と大雅さんと関わらないでください」


「じゃあ僕はれいさんに謝ってもらう」


「大雅が引かないあたり結構キレてるな。白百合の方は却下な」


 僕はそんなに怒ってるのだろうか。


 確かに澪さんを馬鹿にした山坂さんとは仲良くなれる気はしないけど、怒っては……


「いるのかな?」


「今の大雅をキレさせるとかやばいぞ。意図的なのかは知らないけど」


 祐希が言いながら山坂さんに視線を送ると、山坂さんがニコッと笑顔を返した。


駄狐だこ。何か勘違いしてるようだけど、勝負だなんだ以前にもう大雅さんとそこの魔鬼まきを関わせる気は無い」


「そう言わずに勝負だけはしてくれないか? そっちが勝ったら騎麗と会わなくていいから」


「そもそも今日だって仕方なく来てるのに、なんで不快な思いをさせてくる相手にまた会わないといけない、それと魔鬼だけじゃなくて駄狐も二度と会うな」


「騎麗が不快な思いをさせたのは認めるけど、俺は学校同じなんだから会うぞ?」


「学校は他にもある」


「真顔やめろよ。本気で言ってるのわかってるけど本気に聞こえるから」


 僕としても祐希と学校で会えなくなるのは嫌だから澪さんの冗談を実行することは無いけど、確かに澪さんの真顔の本気感がすごい。


 まるで本当に僕と祐希を二度と関わらせないようにしてるみたいだ。


「騎麗は別にいいですよ? 不戦勝貰ってあげても。あ、でもそれじゃあ騎麗達の勝ちだから会えちゃいますね」


「お前はなんでそう煽る」


「だって負けるのが怖いって言うからぁ」


「俺が聞いてあれだけど、お前ちょっと黙ってろ」


 なんだろう、まだ祐希達と合流してから一時間ぐらいしか経ってないのに祐希が五歳ぐらい老けたように見える。


「じゃあわかった。白百合、お前達が勝ったら白百合のこの世で一番欲しいものをくれてやる」


「私が一番欲しいのは大雅さんとの時間です」


「違うな。お前が一番欲しいのは大雅に関する全てだ」


「大きく言えばそうですけど、あなたに私が勝負に乗るような大雅さんが用意できると?」


「甘く見るなよ。俺はお前よりも大雅と過ごしてきた時間は長いんだよ。つまり、お前の知らない大雅を知っているし、持っている」


 祐希の発言に澪さんがピクっと反応した。


 澪さんの知らない僕とは、澪さんと出会う前の僕。


 そういえば僕って昔はどんなだったか。


「私は栞代かよさんから昔の大雅さんのことは聞いてます」


「だろうな。だけどいいのか?」


「何がですか?」


「俺が大雅の昔の写真を持っているのは」


 澪さんがさっき以上の反応を見せる。


 そんなに反応することだろうか。


 確かに僕も祐希が昔の澪さんの写真を持っていると言われたら欲しくなるけど、澪さんは栞代さんから見せてもらってるのに。


「さあどうする? いいのか? 俺が大雅の写真を持っていても」


「……背に腹はかえられないですか」


「やっとスタートラインかよ。俺の代償でかいけど」


「やっぱり先輩ってそっち系なんじゃ?」


「誰のせいだと思ってんだよ」


 また祐希が老けたように見える。


 逆に山坂さんはニコニコして幼く可愛くなっている。


 祐希は山坂さんの歳を吸っているのだろうか。


「とりあえずまとめるぞ。これから三本勝負をして勝ち越した方の勝ち」


「なんで三本なんですかー?」


「やればわかるよ。やるのはその時に決めればいいか。それで大雅と白百合が勝ったら騎麗が白百合に謝って俺と騎麗が二度と大雅と関わらない」


「それと駄狐の持っている大雅さんの全てを私に譲渡して駄狐の元に大雅さんは残らないようにする」


「元カノの写真消させるみたいだな」


「……」


「調子乗りました」


 澪さんの真顔に祐希が頭を下げる。


 勝負をするのはいいけど、やっぱり勝ったからといっても祐希まで関わらないのはどうなのか。


 祐希は僕の唯一の友達なのに。


「じゃあ俺達が勝ったらだな。俺からはお前ら全員もう少し仲良くしてくれ」


「騎麗は仲良くしたいですよー」


「お前が雰囲気悪くしてる原因なんだよ。理由はなんとなくわかるけど余計なことするな」


「酷い! 先輩は騎麗の味方だと思ったのに……」


「わかったから。それで騎麗は勝ったら何を求めるんだよ」


「ひ・み・つ」


 山坂さんが祐希にウインクをしながら言う。


 一体僕達に何をさせようと言うのか。


「じゃあそういうことで。とりあえずボウリングスタートでいいか? なんか今日『とりあえず』ってめっちゃ言ってんな」


「いいですよ。どうせ何をしても変わらないですし」


「何でも勝てると?」


「全部やったことないから得意不得意がわからないってことです」


「だろうな。大雅もだろ?」


「うん。こういうとこ来ないもん」


 だからこそ祐希はここを勝負の場所に選んだんだと思っていた。


 山坂さんはわからないけど、少なくとも祐希は来たことあるだろうし。


「さすが先輩。やり方が汚いですね」


「お前も俺の味方じゃないんだな。こうでもしないと駄目なんだよ。というか本当は初めての大雅と白百合に教える感じにしたかったんだからな?」


「あなたに教わることなんて無いですけど?」


「言うと思ったわ。白百合はついでだっての」


 なんだか祐希に悪いことをした。


 僕達の為に色々と考えてくれていたのに遅刻はするし、山坂さんとは仲良くしないし。


 後でちゃんと謝らないと。


 だけど僕達がもしも勝ってしまったら祐希と関われないから謝れない。


「大雅、別に勝ってもいいよ。その時はその時だから」


「うん……」


「じゃあ入ろうか」


 こうして僕達の謎の勝負が始まる。


 考えたら駄目なのだろうけど、やる意味はあるのでろうか。

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