第7話 生意気な中学生

「遅れてごめんなさい」


「別に大丈夫だから頭上げろ。隣で目元が赤くしながら逆に胸を張ってるやつを見習え」


 れいさんと急いで祐希ゆうき達との集合場所に向かったけど案の定遅刻してしまった。


 だから祐希を見つけた僕は出会い頭に頭を下げて謝ったけど、澪さんは逆に真顔で胸を張っている。


「澪さんも謝らないと」


大雅たいが白百合しらゆりは遅刻したことを悪いとは思ってるけど俺に頭を下げるのは癪だから謝りたくないんだよ」


「澪さん、悪いことをしたら謝るんだよ」


「ごめんなさい大雅さん」


「白百合のそういうとこ嫌いじゃ……やばいな、全員から軽蔑や侮蔑の視線が……違う、殺気か」


 祐希のことだから澪さんを友達として嫌いじゃないと言いたいのはわかる。


 わかってはいても許されない発言というものはある。


 ただでさえ最近では澪さんと仲良く話していているのが気になるのだから。


「気色悪い」


「言いたいことはわかるけど、もう少しオブラートに包むとかできないのかよ」


「彼女の前で堂々と浮気まがいなことを言うようなゴミ虫にオブラートなんていらないですよね? というか話しかけないでくれます?」


 澪さんが祐希から隠れるように僕の背中に隠れる。


「誰がお前みたいなのを口説くんだよ」


「それは澪さんを侮辱してるの?」


「そんな事ありません。白百合はとても素敵な女性です」


「それは澪さんを僕から奪おうとしてるの?」


「言われると思ったけど違うわ。そもそも俺が白百合と付き合わないとこの世が滅びるとかならない限りはそんな気は起きないから」


「私はゴミ虫と付き合うぐらいなら最期の時まで大雅さんと過ごしますけど? 何を自惚れてるんですか?」


「例えを間違えた。というか白百合が俺と付き合う理由が何も思いつかないわ」


 わかっている。


 祐希はタラレバを話してるだけ。


 なのにこうもモヤモヤするのはなんなのか。


「なんか寒いな。最近暑くなってきたからって薄着しすぎたかな」


「せーんぱい。そんなに寒いなら目の前で浮気されて悲しくて悲しくて心が冷えてる私と暖め合いましょ」


「いやぁ、騎麗きらが寒い原因だと思うから逆効果なんじゃないか?」


「なるほどです。つまり先輩は私みたいな冷えきったのよりも自称親友さんの彼女さんに暖めてもらいたいと」


「んな事言ってないからな!? マジでやめろよ。白百合に汚物を見るような目を向けられるのはいつものことだけど、大雅に距離置かれたら泣くぞ?」


「あ、先輩ってそっち系でしたか……」


 祐希に冷たい視線を送っているフードを被った小さくて可愛い女の子が祐希の彼女さんだろうか。


 小さいのとフードを被ってるせいで顔は見えないけど、声はとても可愛い。


「じー」


「どうしたの澪さん」


「なんか大雅さんが私以外の女の子を見て『可愛い』って思った気がしたので」


「思ったよ? 澪さんとは違う感じで可愛いよね」


「なんですかそれ! 要は私のことも可愛いって言ってますけど、駄目なんですからね!」


 澪さんの頬がぷっくりと膨らむ。


 やっぱり澪さんの可愛さに勝てるもの無し。


「やば、可愛い」


「俺みたいに白百合の本性を見せつけられてないと可愛く見えるんだな」


「先輩ってやっぱりそっち系なんじゃないんですか?」


「だからマジでやめろ。俺は今日を命日にしたくない」


「大丈夫ですよ。先輩は私が守りますから」


 なんだかかっこいいことを言っているけど、それを言うのは男女逆ではないだろうか。


 祐希らしいと言えば祐希らしいけど。


「それでそこの女の子は祐希の彼女さんで合ってるの?」


「あ、そっか。そうですね、先輩に『俺のものになれ』って言われて断りきれない状況に追い込まれた私は山坂やまさか 騎麗きらって言います」


「語弊しかない言い方やめてくれる?」


 祐希がそんなことをするわけはないと信じたいけど……


「大雅、お前は信じてくれるよな?」


「も、もちろん」


「白百合、お前からの悪影響で大雅が変なこと覚えたろ」


「自分の都合が悪くなったら人のせいにするなんて。救いようのない駄狐だこですね」


「なんでだ? 俺に味方がいない」


 ちょっと悪ふざけが過ぎたようだ。


 本気で落ち込んでいる祐希を山坂さんがとてつもなく嬉しそうに見ている。


「先輩、先輩には騎麗がいますから大丈夫ですよ」


「一番追い込んだやつが何言ってる」


「だって先輩の落ち込む姿はとてもそそ……じゃなくて、気のせいですよー」


 山坂さんが満面の笑みで背伸びをしながら祐希の頭を撫でる。


 なんか見ててほっこりする。


「大雅、騙されるなよ? 騎麗は自分で俺を追い込んで、落ち込んだところを慰めてるだけだから。詐欺と同じ」


「でもぉ?」


「それで喜んでる俺がいるんだよ!」


「素直な先輩にはデート中に恋人繋ぎの権利をあげまーす」


「バカップルっぽいからやめろ」


「それはつまり二人っきりの時にもっと激しいご褒美が欲しいってことですね。先輩の変態ロリコーン」


「こいつそろそろわからせた方がいいか?」


 疲れたような顔で祐希に見られた山坂さんが「襲われるー」と言って僕の背中に隠れた。


 その際に山坂さんの顔がちゃんと見れたけど、幼さの残る可愛い顔立ちで、守りたくなるような小動物感がある。


 それと、どこかで見たことがあるような?


「山坂さんって──」


「大雅さん! いつまで見つめてるんですか!」


 山坂さんに話しかけようとしたら澪さんに引っ張られて引き剥がされた。


「あと少しでタイガー先輩を騎麗の魅力で籠絡でしたのにー」


「うるさい魔鬼まき。大雅さんはあなたみたいな小娘に興味なんてない。それとその呼び方はやめろと言ったはずです」


「それならその『魔鬼』ってのもやめてくださいよ。可愛くないです」


「やっぱりあなたと大雅さんを会わせるべきじゃなかった……」


 澪さんがとても寂しそうな顔をしている。


 それは嫌だけど、僕を山坂さんから引き剥がした時に澪さんが僕を抱きしめてくれていて、それが嬉しい僕もいる。


「ここで喧嘩はやめてくれよ? 今日は二人の懇親会でもあるんだから」


「何が懇親会だ。やっぱり私は帰る。大雅さん、行きましょ」


 澪さんが僕を離して手を引いて行く。


「逃げるんだぁ」


「別にそれでいいですよ」


「遅刻してきたくせに自分の都合が悪くなったから逃げるとか……ダサ」


 澪さんは山坂さんの言葉を無視して進む。


 だけど足が止まった。


 僕が動かなくなったから。


「大雅さん、気にしないでいいですから」


「ごめん無理。澪さんを酷く言われてそのままに出来るほど僕は出来た人間じゃないから」


「そういうことを普通に言う……でもそういうところも好きです」


 これで澪さんの了承も得た。


 後はあの得意気な中学生をどうわからせるか。


「もうどうにでもなれや。行くぞ」


 やつれ始めた祐希が人差し指で僕達を呼ぶ。


 祐希のことだから僕達の全てを解消してくれる場所へ案内してくれる。


 だから僕と澪さんは無言でついて行く。


 山坂さんは変わらず喋ってたけど。

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