第78話

けれど、氷が溶けて段々と薄まっていく味がつくり出したものだったら、こんな私でも似合いだと。


そう思ってしまっても良いものだろうか───なんて。






「それはどういう意味で、」







見上げた先。


カウンターの隣席とは中々どうして近しいもので、搗ち合った視線がつくり出す世界に驚く。




見慣れたはずの男性の顔。


話し慣れたはずのお兄さんの顔。


私が幼少の頃より見慣れていたはずのその容貌が、時折音をたてるグラスの氷に溶かされていくみたいで。







──なんで二人で飲みなんてしているんだっけ?


──何言ってるのよ。普段からよく飲んでいたじゃない、二人きりで。







「……わかんない?」







──なんの切っ掛けでこの人と出会ったんだっけ?


──そんな疾うの昔のこと、








「口説いてんだよ、桜子のこと」








忘れてしまっても良いはずなのに、今でも鮮明に──。

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