自治区
フレンシアは「ふん」と、ツルマイの港からはるか遠くの艦隊を見た。
「ふざけるんじゃないわよ。これから交易街として育てるのよ。潰されてたまるもんか。どれだけ投資させられたか。どれだけ……」
涙が止まらない。
回収できるのか?
「スタリングの間近くの港よ。喉に剣を突きつけたみたいた港街なんて……」
フレンシアは気づいた。
「あ?いるじゃん、適材適所が」
美樹は豪華な夕食を前にしていた。都内の高級レストランから恋人と見る夜景は夢のように煌めいていた。幸せを感じていたのも束の間のことだ。テーブルごとひなびた港にいた。
「架純……」
「何も言わなくてもいい。こういうの癖になるものなの?ここはクロノスね」
旅装束のフレンシアが現れた。
こんにちは!
アマンダは剣を杖に海を睨んでいた。
「わたしたちガイア開発がこの村を交易港にする予定なの。インフラ整備してくれない?」
架純は黙々と食べていた。
美樹は苦笑するしかない。
「フレンシア、立派に社長してるわね。クロノスの田舎開発の青写真を描けということね」
「ちょっとややこしいんだけど」
フレンシアは海を見て、
「あれはクロノス艦隊なの」
艦隊を指差した。
望遠鏡で見た。
「砲撃してる?」
訳わからん。
「あちらがスタリング。敵国ね。今クロノスが砲撃してるんだけどね」
「要するに……」
架純は口を拭い、ワイングラスのワインを一気に飲み干した。
「戦争してるのね」
「架純ちゃん、話が早いわ」
パチパチパチ!
「舐めとんのかっ!」
ボトルごと飲んだ。
「せめて戦争終えてから呼べ!」
「んなことわたしたちもおまえに言われんでもわかってるのよ!」
フレンシアが天空に叫んだ。
美樹も架純もこれにはシュミットが絡んでるんだなと理解した。アマンダはクロノスの議会に参加していると聞いていた。
議会が召喚獣対策法改正しないので、シュミットに追い詰められているのだと。
「スタリングが奴隷貿易してる商人を保護してるんだよ。で、奴隷を救うためにヴィンたちが船を占拠したんだけど捕まった」
「スタリング……」
何か気付いてしまった。
「シュミットと話させて」
美樹はフレンシアに伝えた。よその国だからと言いつつ、何とかシルクはアスタクにアクセスした。複雑なことしてるんだろうな。
『お?小娘じゃん。こっちにいるの?』
「喚ばれたの。シュミットと話したい。これじゃフレンシアたちがかわいそうよ。アマンダも敵国に取り残されてるのよね?」
『シュミットはツルマイの隣の漁村を召喚獣の自治区にするように話したはずだ。アマンダも向こうの行政官も内々で済まそうとした』
アスタクは話した。
『艦隊を動かしたバカのせいでうまくいくものもいかんのだよ。クロノスは戦争したくてしようがないらしい。まず艦隊を引き上げさせる』
「引き上げるの?」
『うまくいかねえんだよ。シュミットが激怒してる。対策法も改正できないし、ツルマイの港も召喚獣売買に手を貸してるしで』
「なら自分ですればいいのよ!」
『……』
「え?あれ?待って。今の撤回する」
美樹は沈んだ空気に気づいた。
そういうことね。
『もし引き上げないなら、シュミットはクロノスの艦隊をスタリングの前で殲滅する』
「殲滅までしなくても……ね。ちょっと警告するとかで何とかなるわよ?えへ」
『奴隷船を一隻沈めた』
「滅茶苦茶怒ってるじゃん。この世界支配しそうな勢いじゃない?」
『そうだな。もうシュミットに任せるか』
艦隊を一人で撃退したとの噂はスタリング以外にも広まると、クロノスの議会はシュミットの身勝手な行動だと非難しようとした。
悪いのは艦隊だ。
奴隷を許していることも含めて。
意見が跳ね返された末、まとまらない議会に嫌気が差したアマンダは帰郷した。
シュミットは、
「すべての地位と身分を返上する」
答えたらしい。
ま、それくらい言うだろうな。
ヴィンは笑い捨てた。
フレンシアの会社は港を整備する権利を得たし、自治区にはならないが召喚獣を雇い入れることにも成功し、ひとまず話は済んだ。
ヴィンは港街に拠点を移し、スレイの建てた店の二階に居候を決め込んでいた。彼女の料理は評判で美貌も兼ね備え、ヴィンのアルバイトも忙しく、しばらく賞金稼ぎはお休みだ。
一人の青年が現れた。
「召喚獣の面倒見てくれるのは、ここですか?」
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