峠越え

 ヴィンは村で三日分の食料を買い込んだ。

 あれやこれやを買い込んだ。

 峠を越えた。

 サイクロプスのいる村へと向かう。

 途中、巨大なサイクロプスの映像が山の頂に手をかけるように揺らめいていた。

 スレイは口を半開きにして見ていた。

 野宿をした。

 焚き火で肉を炙る。

「上のサイクロプス気持ち悪いですね」

 グランが呟いた。

 白く浮かんでいた。

「僕は気にならないけどね」

「わたしは気になる」

 スレイは肉にかぶりついた。

 一日の食料以上がいるのかと。

 瓶で酒を飲んだ。

「まあまあ」

「サイクロプスくらい倒してやる。石ころ一つ落ちたくらいで大げさな」

「いろいろあるんじやない?」

 ヴィンは答えた。

 グランは峠ではサイクロプスに襲われると聞かされていたことに怯えていた。

 やがて焚き火が消えかけた。

 グランは寝ずの番をするらしい。

 ずっと見上げていた。

 星空が映る。

「弟子っこ寝たみたいだけど?」

「だね」

 スレイがグランに外套をかけてやると、ヴィンの傍にくっついてきた。

「寒いの」

「そう?」

「気付かないわね」

 腹に軽く爪を立ててきた。

「あたためてよ」

「やだ」

「じゃわたしがあたためてあげる番?」

「いらない」

 ヴィンが背を向けた。

 スレイは後ろから胸をつかんできたので彼女の手の上から止めるように押さえた。

「どうして?」

「あのね、これからサイクロプスに会いに行くんだよ。なのにこんなところで」

 甘えた顔で覗き込んできた。

 ダメなの?

 ヴィンはスレイの後ろを抱えるように唇を合わせようとして、そのまま投げ飛ばした。

 剣を抜いた。

 スレイは地面を蹴ると、

「見えるわよ」

 暗闇に飛び込んだ。

 ヴィンは何人かを倒すと、逃げそこねて地面に這いつくばる一人に剣を突きつけた。

「グラン、起きなさい」

「あい」

 寝ぼけまなこで惨状を見た。

 何ですか、これ。

「賞金首用の手枷と縄で繋いで」

 スレイが三人を抱えてきた。

 逃げた奴も捕まえてきた。

「トドメ刺してないわよ」

「半殺しだよね」

 ヴィンは呆れた。

 ひどいとシュミットに話さないといけないからと言うと、泣きそうな顔で答えた。

「手加減したもん」

「わかったわ」

「師匠も言えませんよ。腕落ちてますね」

「弟子のくせに師匠の腕を批判するとはいい度胸してるわ」

「だから山賊の腕が落ちてると」

「繋げてやれば?」

 スレイが興味津々でグランを見た。

「できませんよ、んなこと」

「何ならできるの?」

「ひどっ」

 ヴィンは二人のケンカを止めた。

 止血してやれと命じた。

 朝、日が差し込んだ。

 ヴィンが起きると、

「わたしじゃないから」

 スレイが頷いた。

 すでに二人が死んでいた。

 身ぐるみ剥いだ死体を崖から捨てた。よくよく見ても使いものにならないので、ライフルと剣以外の剥いだ身ぐるみも捨てた。

 鳥が崖下に舞い降りた。

「三人様ね」

「わたしが殺したのはいません」

 スレイが宣言した。

 山賊の行きつくところだ。

「村人じゃないですか」 

 グランは気付いた。村の人々は山賊行為をサイクロプスのせいにしようとしている。

「君たちは峠を越えようとする人たちを殺すか何かしてるんだろ?答えたら許すよ」

「俺たちの村はひなびてるんだ」

「理解したよ」

 グランはヴィンを見上げた。手枷手縄で馬に乗せて連れて行くようにと命じた。

「面倒だなあ」

「シュミットに釘刺されたんだ。この前の今日に殺生できないよ。あれはスレイだけに言ったんじゃない。村で連絡するさ」

 スレイがヴィンの後ろに乗った。

 峠の間、ずっと甘えてきた。


 

 

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