アマンダ
ぬるいバスタブでぼんやりしていた。
金髪の髪を結わえていた。
白い肌と豊かなバストが泡に隠れる。
領地運営はコンサルタントのフレンシアが何とかしてくれているものの、シュミットとは連絡とれないままだし、雑務は増えるし。
「あのまんま戦争してた方が楽だったのかもしれない。議員なんて辞めたいよ」
影が現れた。
昔から仕えているブランだ。
「どうしたのお?」
「通信がございますが」
「誰え?」
「シュミット様から」
「どこのお」
「賢者シュミット様」
バスタブから出ようとして蹴躓いた。
ブランを無視し、召使いからバスローブを引ったくるように廊下を駆け抜けた。
執務室に飛び込んだ。
空中映像には何もない。
どこ?
暗号回線か。
隠し扉の裏に飛び込んだ。
『よっ!』
「アスタク……」
『シュミットからの伝言だ。てめえは何て格好してやがるんだ。露出狂かよ』
アマンダは床にへなへなと崩れた。
アスタクは映像の向こうでグラスのウイスキーを飲んでいた。
「うるさいっ!何であんたがシュミットと話せてわたしが話せないの!」
『てめえがあんな法律通したからだろ』
「わたし一人じゃどうにもならないことぐらいわかるくせに。何なのよ。シュミットはわたしに嫌がらせしてるの?嫌いだわ!」
『メモメモ……』
「うそうそ。メモらないで。今のはちょっとした冗談だから。何なの?伝言というのは」
『弟子のヴィンが行くそうだ。だからくれぐれも丁重にもてなしてくれ。弟子のヴィンだ』
「何でヴィンだけ特別なのよ。わたしも弟子みたいなもんよ」
『知らんがな』
「彼女、シュミットのところにいるの?ていうかマジ何であなたのところへ」
『国に盗聴されてるからだろ。かつての英雄かもしれんがね。野良召喚獣だからな』
アマンダはバスローブの前を整えて椅子に腰を掛けると、次第に冷静になってきた。
普段シュミットは動かない。
ただ道理が通らないときは動く。
ヴィンはコテージの二階にいた。
スレイは隣の部屋のはずだが、風呂から戻ると、ヴィンのベッドの中で丸まっていた。
「どうした?」
「思い出したの」
「は?」
「怖かったよ。シュミット怖いよ。一人で眠れないから一緒に寝て。ね?ね?」
スレイは一人でいるとシュミットに寝首をかかれそうで怖いのだと話した。
ヴィンは呆れつつ隣に入った。
「んなことしない」
「でも戦争のときシュミットは一瞬で十万人を殺したのよね?街ごと消した。とんでもなく強いのよね?わたしなんて瞬殺される」
ヴィンは彼女の頬を撫でた。
大丈夫だよ。
ヴィンは抱き締めた。
「僕でよければあたためてあげるよ」
首筋に軽くキスをしてあげた。
彼女が疲れるくらいは起きていた。
緊張が解けると、寝息をたてた。
そっと落ちたシーツを掛けてやると、軽く服に着替えて一階のリビングへ降りた。
シュミットは起きていて、消えかけたストーブに薪をくべていた。前の戦争を終わらせた英雄として、賢者という称号を与えられた。
「よろしいですか」
「ラマル族のメスは我が身を守らせるためにオスを魅了するという術を身につけた。オスがいなければ生きていけない世界なんだ」
「はい」
「座れ」
ストーブの近くの椅子を勧められた。
ヴィンは浅く腰掛けた。
「簡単に戻していいとは思えんな」
言葉もない。
シュミットはストーブの上のヤカンからカップに紅茶を注いだ。
ヴィンに渡してくれた。
師匠は少し甘いのが好きなのだ。
「おまえはアマンダのところへ行け」
「スレイはアマンダと敵同士でした」
「おまえが何とかしろ。スレイが俺との約束を守るんなら、俺は何でもしてやる。アマンダに指示を仰いで法律を改正させろ。もちろん簡単じゃない。簡単ならおまえに任せない」
スレイについては、早く教会へ連れて行かなければペナルティが与えられる。
「まだまだ逆送装置は完全ではない。ああいうものには故障がつきものだろう?」
シュミットは笑いつつ紅茶をすすった。
誰が壊すのか。
師匠、やってくれるのかな。
「フレンシアにやらせろ。彼女の会社とやらも装置開発に絡んでるんだろうが」
「フレ姉の会社は合法的で順調に成長してるんで僕は巻き込みたくはないんですが」
「俺は構わん」
「……もし法律が変わらない場合は?」
「そうだな。召喚獣の召喚獣による召喚獣のための国でも作ろうか」
ヴィンは苦笑した。
この人ならやりかねん。
以前までは魔術は戦争の補助的なものとして扱われていたが、彼は一人で戦局を変え、戦後には魔術の地位を高めたと賞賛された。
ただ……
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