得女梨鳥巣(エメリトス)

無邪気な棘

第1話 ペットボトル

「うーん、固いなぁ、開かないよ。」


志乃生(しのぶ)は、力一杯ペットボトルの蓋をひねったが、汗で滑って、なかなか開かない。


見兼ねた英介(えいすけ)が、そっと手を伸ばして、志乃生のペットボトルを引き寄せた。


「貸してみろよ、開けてやるから。」


英介の手が、少しだけ志乃生の手に触れた。


志乃生は少し、赤くなった。


志乃生は英介の幼馴染だ。同じ高校に通っている。


艶のある黒くて長い髪。透き通る様な白い肌。吸い込まれそうな瞳。そして、芳醇な唇。


英介は、その胸の内を、志乃生に明かせないでいた。「好きだよ。」と。


だが、それは志乃生も同じだった。


8月の青空に、大きく延びる入道雲が、海の遥か彼方の水平線を、優しく包み込む。


「最後の夏休みだね。」 


志乃生がそう言うと英介は静かに答えた。


「うん。」


ペットボトルの蓋が開く。


英介はそれをそっと志乃生に手渡した。今度は志乃生に触れない様に。


本当は、触れかったのだが…。


若い二人の姿を、真夏の照り付ける太陽が見ていた。

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