赤の終焉と灰の遺産

　2026年3月1日、ユーラシア人民連合の崩壊から3か月、世界は戦争の傷跡に喘いでいた。日本では焼け跡に桜が咲き、アメリカでは瓦礫の中から星条旗が掘り起こされた。第三世界の親日・親米派は復興に汗を流し、チェチェンは独立を祝い、西洋諸国は再建に着手した。勝利の余韻は残るものの、数百万の死者と壊滅した都市が、重い現実を突きつけていた。

「平和への一歩｣

　日本では、天皇徳仁が主導し、「世界平和会議」の開催を提案した。東京の仮設議事堂に、各国の指導者や民衆の代表が集まった。皇道義兵の生き残りや極右の佐藤誠、新生オウムの佐藤真理子も参加し、「二度とこの惨劇を繰り返さない」と誓った。天皇は静かに語った。「我々の犠牲は平和への礎となる。共に未来を築こう。」その言葉に、会場は拍手に包まれた。

　アメリカのエリザベス・ハドリーは、ネイビーシールズのマイク・デービスと共に会議に出席。「自由を守った我々には、平和を守る責任がある」と演説し、軍縮と復興支援を約束した。第三世界からは、ナイジェリアのゲリラ指導者アブバカル・シェカウが立ち上がり、「アフリカも平和の担い手になる」と宣言。インドネシアやインドの親日・親米派も賛同し、資源と技術の共有を提案した。

　チェチェンのアスランの後継者、ザウル・イサエフは、「独立は平和の第一歩だ」と述べ、コーカサスの安定を約束。西洋からは、フランスのレジスタンスリーダー、ジャン・ルクレールが、「欧州は団結し、再び立ち上がる」と力強く語った。会議は「東京平和協定」の草案をまとめ、軍事縮小、経済支援、国連再編を柱とする平和への道筋を描いた。

「復興と和解の光」

　3月10日、具体的な動きが始まった。日本では、空挺団と極道が瓦礫撤去に協力し、街宣車が「復興は日本の誇り」と流して回った。アメリカでは、シールズがボランティアとして被災地を巡り、KKKの残党さえ食料配給を手伝った。第三世界では、アフリカ連合が親米派を中心に再結成され、インドが技術者を派遣。西洋では、ドイツとフランスが共同でインフラ復旧に乗り出した。

　和解の兆しも見えた。日本とチェチェンは友好条約を結び、皇道義兵がコーカサスに慰霊碑を建てた。アメリカと第三世界は、過去の植民地支配を謝罪し、共同開発プロジェクトを立ち上げた。東京平和協定は3月15日に署名され、世界は一時的に息をついた。佐藤真理子は傷だらけの手で協定書にサインし、「これが我々の償いだ」と呟いた。

「赤の胎動」

　しかし、平和の影で、赤い思想が再び蠢き始めた。中国の地方都市、蘭州では、連合の残党が地下集会を開いていた。指導者、王志剛は、「李強の死は終わりではない。赤いユーラシアは再び起きる」と同志を鼓舞。モンゴルの草原では、遊牧民が密かに赤旗を掲げ、トゥヴァの若者が喉歌に革命の詞を乗せた。カザフスタンの山間部でも、旧連合軍の将校が武器を隠し、次の機会を窺った。

　朝鮮では、金永進の信奉者が平壌近郊でゲリラ活動を再開。「統一帝国は死なず」と叫び、日本への憎しみを募らせていた。ロシアのシベリアでは、ソ連時代を懐かしむ老兵が集まり、「赤い星が再び輝く」と囁き合った。これらの動きは小さく、散発的だったが、思想の火種は消えていなかった。

　日本でも不穏な兆候があった。極右の一部が、「平和協定は弱さの証」と批判し、天皇への忠誠を盾に武装を続けた。アメリカでは、共産主義に共感する若者がデモを始め、「資本主義が戦争を生んだ」と訴えた。第三世界では、アフリカの一部の部族が連合の理想に惹かれ、密かに接触を図った。チェチェンでも、親ソ派の少数派がザウルを非難し、「独立は赤い秩序の下でこそ意味を持つ」と主張した。

「平和の脆さと未来への問い」

　3月20日、東京で平和協定の記念式典が開かれた。日の丸と各国旗が並び、子供たちが歌を歌った。佐藤真理子は車椅子で壇上に立ち、「我々は勝った。だが、平和は守れるのか」と問いかけた。エリザベスはマイク越しに、「自由は永遠ではない」と警告。ザウルは静かに頷き、「戦いは形を変えるだけだ」と呟いた。

　その夜、私はモスクワの廃墟に立った。風が灰を運び、遠くで赤い旗が揺れる幻を見た。平和への努力は尊く、美しかった。だが、蘭州の集会、平壌のゲリラ、シベリアの囁きが耳に残った。親ソ派は力を失ったかに見えたが、その思想は生き、静かに胎動していた。戦争で死んだ数百万の魂は、平和を願っただろう。だが、その平和はどれほど続くのか。

　佐藤誠は街宣車で東京を回り、「日本は眠らない」と叫んだ。マイク・デービスは新たなシールズを訓練し、「次が来る」と備えた。王志剛は蘭州の地下で笑い、「赤は不滅だ」と呟いた。世界は平和に向けた一歩を踏み出したが、灰の下で赤い火種がくすぶっていた。この後日談は、希望と不安の間で揺れていた。