ほんとうにあったら怖い話

駆動トモミ

ほんとうにあったら怖い話

俺は、東京都内で喫茶店をやっている。


とはいっても、喫茶店経営は俺の本意ではない。


ここは、親父が定年退職後、ズブの素人なのに突然「こだわりのある喫茶店をつくる」といいだし、作った店だ。


しかしその肝心の親父は自分の夢をつめこんだ店がいよいよ開業するという時、ぶったおれてそのまま他界してしまった。開業にあたっては親父の退職金の大半がつぎ込まれていたし、物件を買うために銀行から金も借りていた。逃げるわけにもいかず…急遽、俺がこの店を引き継ぐ形となったのだった。


競争相手が少ない地域だったこともあって、客足はまずまず。こだわりのある喫茶店にする、と親父が言っていただけあって建物や内装の雰囲気も良く、客はこぞって店の写真を撮りたがった。


一時期は…いんすたぐらむ?とかいうSNSに店の写真が立て続けに投稿され、所謂「バズった」状態となり、若い女の子がわんさか来店。常に満席状態だったが、親父以上にド素人の俺…正直いって疲労困憊。借金を返さなきゃという一心で、なんとか毎日店を開け続けた。


最近はそんな騒ぎも落ち着き、やっとのんびり店を回すことができるようになってきた。コーヒーの淹れ方も結構サマになってきたようだ。心に余裕ができた時、これまであまり気に留めていなかった客の会話が、すっと耳に入ってくるようになった。


今日は、若そうな女の子二人がパフェを食べに来ていた。

俺がいるカウンターからちょっと離れた窓側の席に座っている。


「この前、言ってた顔面偏差値の高いイケメン、結局どうだったの?」


金髪の派手な化粧の子が、黒髪の子に尋ねた。


「どうって…期待外れもいいところだよ!一緒に飲んでるときはさ、この人いい感じって思ってたんだよ!」

「なんか、お金持ちで外資系の役員だって言ってたよね」

「そうそう。清潔感もあったしすっごく好みでさ。オトせたら結構旨味ありそうだったのになぁ。でも…」 

「でも?」

「あっちの方が全然駄目だったんだよ!」

「そうなんだ?」


ずいぶんあけっぴろげな話をするなぁ…と思った。


生前親父は言っていた…「店のマスターは空気のように存在し、お客様の様子に目を配るべし。ただし、お客様の会話に入り込んではならない。お客様のプライベートに立ち入ってはいけない」と…だがごめん。俺は好奇心を抑えられない。そっと彼女たちの会話に聞き耳を立てる。


「脱がせてみたらさ、全然だめで!」

「へぇ、がっかりだね」

「一緒にお風呂に入って洗いあっこしたんだけどさ…」


昼間の喫茶店で大声で話すような内容じゃないだろ…と思いつつ興味津々だった。金髪ちゃんが続ける。


「サービスいいね…?」

「だってさ、やっぱりきれいにしてほしいじゃん。でもさ、彼の身体を洗ってる途中でさ…全然ダメだって思って。だんだんムカついてきた」

「で、何にもしなかったの?」

「いや、ちゃんといただきましたけど」


黒髪ちゃん、やることやったのかよ!…と思う俺。

金髪ちゃんが俺の心を代弁するかのようにツッコミを入れる。


「え~、なんだかんだ言ってちゃっかりしてるじゃん!で、どうだったの」

「やっぱり最悪だった…なんていうのかな…後味が悪かったっていうか」

「そっか~。やっぱりさぁ、イケメンじゃ男の価値は決まらないよ。お金もいざとなれば紙切れだし。ステータスで吟味しちゃダメなんだって」


金髪ちゃんが見た目と反していやに哲学的だな…黒髪ちゃんは不服そうに言う。


「あんたは、顔にこだわりないからいいけどさ~」

「こだわりがないわけじゃないよ~。優しそうで純朴な人が好きなんだもん!じっくり時間をかけて楽しみたいんだもん!」


金髪ちゃん、やっぱり結構イケイケだなぁ…。


「こだわりがないっていったって、限度があるよ。このまえの大学生みたいな人?あの脂ぎってる感じがいいの?」

「彼ね、両親を早くに亡くして一人で東京に出てきたんだって。だからすごく純粋で…これって結構レアなケースじゃない?全然女の子とデートしたこともないって!このまえ、ほっぺた突っついたらぷにぷにでねぇ。”やわらかいねぇ”っていったらすごく照れてたの。ウブで可愛いの!大好き。食べちゃいたい!」

「わたしはあんたの趣味が全然わかんない。あのね、純粋なドーテーをだましちゃいけないよ?あんまりそういうことすると、終わった後一生祟られるんだからね?」

「そんなお説教してないでさ~次の人探しなよ。メンクイやめよ?一回マッチングアプリで、純粋そうな顔のひと探して、試してみなってぇ。病みつきになるかもよ~?」


女ってそういう感覚で男を探してんの?怖いなぁ。

いけないいけない。俺、今眉間にしわが寄ってると思うわ。

冷静に冷静に…


「あ、マスター!お会計お願いします!」


突然黒髪ちゃんから声がかかり俺は動揺した。

「お会計ですね。お二人ご一緒でよろしいでしょうか?」

黒髪ちゃんが間髪入れずに言う。

「いえ、別々で」

「え~おごりじゃないのお?」

「あたりまえ」

金髪ちゃんは残念そうだ。

「もう…じゃあさっきのがちゃんと成功したら授業料としておごってよ!」


さっきのとは…マッチングのアドバイス?

どうなるのか気になる…中途半端に盗み聴きした俺が悪うございました…


会計をすませ、二人は出て行った。

なんだか…女の闇を観たような気がした。


そして数日が経過し、あの金髪ちゃんと黒髪ちゃんはまたパフェを食べにやってきた。


「ここのパフェ、クリームにコクがあって好きなんですよぉ」


金髪ちゃんが俺の作ったパフェをべた褒めする。悪い気はしない。

この可愛さ、きっと男はコロッといくね、こりゃ。怖い怖い。


注文の品を提供し、俺はカウンターへ戻る。


金髪ちゃんと黒髪ちゃんがあの日と同じようにまた世間話を始めたので俺は耳をたてる。よっ!待ってました!!


「大学生の脂ぎったぷにぷに君は、どうだったの?」

黒髪ちゃんが金髪ちゃんに訊く。

「もう、最高だった~。特上!って感じ…とろけた~」

「ふーん。よかったじゃん」

「そっちは?優しそうな若い子マッチング成功したんでしょ?どうだったの?」

「最初、やっぱりもっとイケメンの方が…って思ったんだけどね…脂ぎってしつこそうな雰囲気もなかったし、清潔感もあってね…」

「で?どうだったの、あっちの方は?」

金髪ちゃんが尋ねると、黒髪ちゃんは顔を手で覆い、耳を真っ赤にして言った。

「超最高だった!!!」

「ほら~!だから言ったでしょ!!はい、今日はパフェおごってね!」

「恐れ入りました」

「やっぱりね、男は顔じゃないのよ。お金でもステータスでもない!」

「そうね…男はやっぱり…”味”だわ!!」

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